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吾輩は猫になっちゃった

   ● 【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第25話
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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第25話




<<これまでのお話>>

はじめに


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第21話
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<<第25話>>


「起きろぉー。風呂だぞぉー。」

という秀吉の声で目覚める。

 

 命名の儀にて「おにぎり」という大変ありがたい、否、ありがた迷惑な名前を授かった僕とミミさん家族はもう食べきれません!というほどに刺し盛りを食べ、そして居間の石油ストーブの前に敷かれた例の座布団の上でみんなで団子になって眠っていた。みんなで寄り添って眠るというのはとても暖かく幸せな気分だったのでもう少し寝ていたかったのだが。

 

「うぅーーーん。おじいちゃん。もう食べれない。。。ムニャムニャ。」

とチョビが寝惚けながら答える。

「お風呂!?入る入るー!早く行こ!」

プリンはお風呂というキーワードにムクッと起き上がって催促するように秀吉の足にしがみついた。その様子がなんだか可愛くてニヤけてしまう。

「じゃ行きましょうか。お風呂。」

ミミさんが起き上がって僕に頷くと、チョビの顔を舐めて起こした。

「良し。いくぞ皆よ。」

と秀吉は言うと、籐で編まれた籠を床に置き、僕たちを一匹ずつ籠に入れた。そしてバスタオルで籠に蓋をすると、籠を抱え上げて歩き出した。

チョビは訪れた暗闇に再び眠りにつく。

「わーい。お風呂お風呂ー。」

プリンはお風呂が大好きなようで、まるで歌うように声を弾ませて言った。

すると

「シーッ!」

ミミさんがたしなめる。

「静かにして。お風呂まで我慢よ。」

「はーい。」

籠にバスタオルで蓋をしたのといい、ミミさんが声を出さないように言ったところを見ると、僕らは人知れず隠密にお風呂に行かなくてはならないようだ。

 

 僕は籐のちょっとした編み目から見える外の様子を注意深く観察してみた。

僕らのいた部屋は普通のどこにでもある日本風家屋の和室の居間。という感じだったのだが、ドアを開けるとそこにはズドーンと長い薄暗い廊下があった。

そうだ。ここはホテルなんだよな。

深夜なのか、館内は最低限の照明にしているようだ。廊下をしばらく進むと、右手にカウンターがあって、左手には広めのロビーが見えた。赤っぽいソファーとテーブルが並んでいる。そして奥にはお土産売り場のようなものがあったが、カーテンが閉められ、小さな照明が灯っているだけで人気は無くしんと静まり返っていた。

さらに廊下を進むと、左右に明かりの灯る部屋があった。

左側は自動販売機がいくつもある部屋でジュースやお酒やつまみが売っているようだ。その反対側は喫煙ルームであることがわかった。喫煙ルームのガラス戸の向こうでは浴衣を着て白いスリッパを履いた30代くらいの男性がひとりタバコを吸いながらスマホをいじっていた。スマホに夢中なのかこちらに一瞥もくれることなく煙を吐き出し指を動かしていた。

その先には上階へと続く階段があって、遊戯室、マッサージ室と書かれた部屋があったがいずれも消灯していた。

 そして突き当りであろうところに「大浴場」と書かれた入口があった。

右側に「男湯」左側に「女湯」と書かれたそれぞれ青と赤の暖簾がかかっていて、暖簾の下にはそれぞれ「清掃中」というよく公衆トイレで見かける黄色いスタンド型の看板が人の進入を遮るように置いてあった。

なるほど、深夜のお客さんが使用しない時間に秀吉やミミさん家族はここでお風呂に入るのだろう。

 

 秀吉が男湯の暖簾をくぐると、そこには頭に白い手ぬぐいを巻き、エンジ色の体育ジャージを着て、フローリングの床をせわしなくぞうきん掛けする小柄なおじさんがいた。

「おぉ。カツさん。ご苦労さん。」

苗字なのか名前なのかわからないが、とにかく彼の呼び名はカツさんと言うようだ。カツさんはこちらに向き直って正座をした。温泉のせいなのか汗のせいなのか、メガネが完全に曇っていてその表情は読み取れなかったのだが、その曇りを拭うでもなく

「旦那様。本日は女性のお客様が時間を過ぎてもなかなかお出にならなかったので、男湯から掃除しております。申し訳ありませんがお風呂は女湯をお使いください。」

と言って一礼した。

「そうか。ではそうするよ。」

そう言うと秀吉は踵を返し、女湯の方に向かった。

「なるほど。旦那様ってことは秀吉はここのオーナーなのね。なるほどなるほど。」とわかったところで僕は大事なことに気付いた。

「ってちょっと待って!女湯って言った?女湯ですとーっ!人生初、というか猫生初の女湯侵入ですーっ!やったー!神様ありがとうー!生きててよかったーっ!一度死んだけどーっ!」

心の中で叫ぶも、すでに女湯も営業終了していて無人であることにさらに気付いて、興奮してしまった自分が恥ずかしくなる。その上

「お前さ…。ホントに馬鹿だな…。」

と辟易する猫神様の顔が脳裏にカットインしてきたので恥ずかしさが倍増する。

 

 秀吉は女湯の暖簾をくぐると、入り口にある電気のスイッチをパチンパチンパチンパチン。と入れた。そして何歩か歩くと籠を下におき、服を脱ぎ始めた。脱衣所のようだ。

うーん。なんだろう。このガッカリ感。女湯でじじいの裸を拝むことになるとは。トホホ。

 秀吉は服を脱ぎ終えると籠を覆っていたバスタオルを取り上げて棚に置き、僕らを一匹ずつ籠から取りあげた。

籠の中が暗かったため一瞬眩しくて目がくらんだが、目が慣れるとそこはどこにでもある銭湯の脱衣所のようなところだった。ロッカーがあって、鏡台があってドライヤーがあって、マッサージチェアがあって、体重計があった。僕の期待にめちゃめちゃ反して全くのお色気ゼロだったことは言うまでもない。

 

「やったーお風呂お風呂ー。」

うなだれる僕とは正反対にプリンがうれしそうに、飛び跳ねるようにマッパの秀吉について駆け出す。チョビは寝惚けて床にべったりとしていたがミミさんに誘われておぼつかない足取りで歩き始めた。

僕もその後をゆっくりと辺りを見回しながらついていった。

ガラガラガラ。と秀吉がガラスの大きな引き戸を開けると、緑雲荘と同じゆで卵のような硫黄の匂いがフワッと漂ってくる。

大浴場の中はとても広かった。鏡やシャワーの付いた洗い場が手前からL字型に十数個ほどあって、その奥に大きな湯船と水風呂と思われる小さな湯船があった。大きな湯船の右奥には岩でできた山から小さな滝のように温泉が流れ出ていた。

 

 秀吉は洗い場の一番奥まで行くと両手で洗面器を二つ取って大きな湯船のそばに置くと、大きな湯船から手桶でお湯を汲み上げ洗面器に注いだ。そして今度は小さな湯船から手桶で水を汲み、2つの洗面器に少しずつ注ぎながら手で洗面器の中のお湯を掻きまわした。湯の温度を調節しているようだ。

「よし。いい湯だ。さ、おはいり。」

とこちらを向いてニッコリと微笑んだ。それをきっかけにプリンが待ってましたとばかりに躊躇なく洗面器の湯船に飛び込んだ。

「ね、熱くない?」

チョビは恐る恐る洗面器の中のお湯をチョンチョンと触っていたが

「大丈夫、ちょうどいいよー!」

とプリンに言われると、意を決したように洗面器にダイブした。

「ね!」

猫はお風呂や水が大嫌いなイメージがあったが、二人はお風呂が大好きな様子だ。

すでに二人は並んで洗面器のフチに顎を乗せて目をつむり、「極楽。」と顔に書いてあるような表情をしている。

 お風呂なんていつぶりだろうか。人間の時以来だよな。でもさ、お風呂が嫌いな猫ってお湯が猫にとって熱かったり冷たかったりするのかな。そんなことを考えながらポカンとしていると

「おにぎりよ。怖いか?うちの湯は最高だぞ。さ、入れ。」

といきなり秀吉に首根っこを掴まれて強引に洗面器に張られたお湯の中にドボンと浸けられた。

「ちょ。まって。て。わわわわ!…ん?超気持ちいいーっ!」

冷えた肉球の血管がじわーっ。と広がっていくような感覚があり、全身が毛に覆われているからだろうか、体全体にゆっくりとじんわりと温かい温泉がしみ込んでくるような不思議な錯覚に襲われた。

「ふぅー。やっぱ風呂だなぁ。生きてるなぁ。」

と親父が昔良く言っていたセリフが口に出る。幸せな瞬間に人間は、というか猫だけど、生を実感するのだな。うん。

 

 人間ならば湯船に入って仰向けになって天井を見上げるであろうけれど、洗面器風呂は子猫の僕にとっては家の湯船より広く、そして深かったので、僕もプリンとチョビの横に並んで洗面器のフチに顎を乗せて湯に浸かることにした。

ミミさんは隣の洗面器に独りで入ったのだが、ミミさんには洗面器は少し狭いように見えた。ミミさんも

「はぁー。気持ちいい。」

と目をつむってやはり洗面器のフチに顎を乗せてお湯を堪能していた。

秀吉はその様子を見て

「気持ち良いだろう。よしよし。」

と満足げに頷くと、洗い場で体をゴシゴシと豪快に洗い始めた。秀吉はいったいいくつなのか、そう疑問に思うほど、しわしわの顔とは真逆で無駄な贅肉の無い筋肉質な体をしていた。

 一通り体と頭と顔を洗うと、秀吉は僕らの洗面器をまたぎ、人間用の大きな湯船にゆっくりと浸かり、両手両足を伸ばした。

「ふぅー。やはりうちの湯は一番じゃ。」

とやはり天井を見上げて言うのだった。

 

しかし秀吉はしばらくすると天井を見上げたまま、独り言なのか僕らに語り掛けているのかわからないがポツリ。ととんでもないことをつぶやいた。

 

そのつぶやきのおかげで、「おにぎり」と命名されしばらく安寧な日々が訪れるかと思われた僕の運命は息をつく暇もないほどに転がって行くのである。


※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
http://ncode.syosetu.com/n2762de/

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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第24話




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<<第24話>>


「起きなさい!」

「うーん…。まだ寝かせてよー…。」

「もう。寝坊助なんだから!ごはんよ!起きなさい!」

いつものように布団が剥ぎ取られる感触がある。
母ちゃんだ!
 「スヌーズ機能」という至高の。いや!史上究極の発明を以てしても起きれない、最凶最悪の寝坊助の僕を、最終的に起こすことができるのは、そう。実力行使の母ちゃんだった。

「んああぁぁぁーーーー!!母ちゃんっ!!!」
なんか久しぶりだなぁこの感触っ!!!
そして襲い来るサブイボ。これだよこれっ!!!!

「ううぅ。さぶっ!!」

久々の感触に、なんとなくワクワク、ゾクゾクしながらも重い瞼を開けると、…そこには僕のよだれまみれのテッカテカのくっさい枕や、汗臭く、もともとは鮮やかぁーなブルーなのに、なんとなーく薄黄色くなってしまった敷布団はなかった…。
 
 代わりにそこは赤と金色の艶々した生地の座布団の上であることがわかった。

「んんっ!?」

 僕の意に反してというか、ある意味僕の希望にとんでもなく反して、そこは僕の部屋ではなく、まったく知らない場所であることを認識した。

 しかし、そこは
なんだかとても懐かしい匂いがした。
古ーい綿とか、タバコとか、お酒とか、お線香とか、加齢臭とか、昔のオーデコロンとか、おならとか、和菓子とか、とにかくそんな匂いをミックスした、とにかく独特な、なんだか懐かしいような、くさいようでくさいわけでもなく、それでいて心地良いような、言わんともし難い、言うなれば緑雲荘に似たような、落ち着く匂いのする座布団の上に僕は寝ていたのだ。(長っ!)


「ココアくん、起きなさい。ごはんよ!」

「母ちゃん…?ん!?えっ!?ミミさん!?」

目の前にミミさんが現れたのでびっくりする。

母ちゃんがいつものように布団を剥ぎ取って起こしに来たんだと思っていたからだ。
いつもの退屈な日常に引き戻されたならなんと幸せだっただろうに…。と思っていた。
そうか…。僕は猫でしたね…。

ミミさんが僕の顔を3度ほど舐めてから

「ごはんの時間だから起きて。」

とミミさんはキリッとした口調で言った。


 そこでようやく寝惚けていた僕は我に返った。
 
僕は一体どうしたんだっけか…。

そうだ…。「登別ホテルグランデ」から「ホテル多吉」に向かって温泉街のメイン通りを渡る途中で凍結した道に足を取られ、そして見事に滑ってトラックに轢かれそうになってデジャブ体験をしたところで記憶が途絶えたんだ。

「ミミさん…。ここはどこ?」

「私たちのおうちよ。」

「おうち…?僕は一体どうしたの?」

「道を渡ろうとしたところでココアくんが滑ってね…。トラックに轢かれそうになったから私が咥えて間一髪のところで逃げたのよ。ココアくん、気絶しちゃって…。」

「そうだったんだ…。ごめんなさい!助けてくれてありがとう。ミミさん。」

「いいのよ。私ももっと子供たちの走るスピードを考えるべきだったわね。サクラさんとね、ココアくんをちゃんと安全に送り出す。って約束したのに。その矢先にさっそくあなたを危ない目に遭わせてしまったわね。ごめんなさいね。」

「ううん。僕もちょっと他のことに気が逸れていたから…。」

「他のこと?」

「い、いや、なんでもないんだよ…。」

まさか僕がウサインボルトの世界新記録と子猫新記録に気が取られていたなどミミさんには口が裂けても言えないし、もし言ったとしても、そしてウサインボルトのあの弓矢のポーズを決めたとしても、分かってもらえないであろうことはそれこそ重々分かっていた。
「さ、ココアくん、お腹空いたでしょ。ごはんよ。」

僕はミミさんに誘われて座布団から立ち上がった。


 座布団の先には畳が広がっていた。
畳は少々ひんやりしたが、部屋の中央付近には石油ストーブが赤々と灯っていて空気はあたたかかった。

「お兄ちゃん!起きたの?」

「ごはんだよー!」

チョビとプリンが飛び跳ねて擦り寄ってくる。

 それにしても一体今は何時なのだろう。どれだけ眠っていたのだろう。そして今、朝ごはんなのか昼ごはんなのか、それとも夕ご飯なのか…。

 僕は時間や部屋の様子を確かめようと、まだ霞んだ目で辺りを見回した。
部屋はいたって普通の6畳から8畳の日本の家庭のリビングといった感じだった。
テレビがあって、こたつがあって、沸騰したポットのかかった石油ストーブがあって、茶器の入ったサイドボードがあって、近所の電気屋さんがくれたカレンダーがかかっていて、壁の上の方には自分なのか子供なのか孫なのかの賞状が何枚か飾ってあって、その隣には先代なのか先々代なのか先々々代なのか、先々々々代なのか、「この家の歴史。すなわち遺伝の様子です!!」って言うのがよーく伝わってくる似通った人々の白黒→カラーの肖像写真が並んでいて、ごみ箱と、その周りに投げ損じたであろうティッシュの屑があって、そして、茶色い木目がなんだか逆に高級に見える仏壇があった。


 なんかこう、世代って言うか、家族の歴史を感じられるリビングって良いよな…。って自分の家のリビングと照らしてみてちょっと嫉妬した刹那。テレビの左上にある時計がちょうど、というかすんごくキレイに、むしろ劇的に6時!と誇張するように時刻を指していたのが見えた。
6時ってのはなんだか特別で。真っすぐに垂直に時間と分を指している。

「えっと、ママと綾さんとおばさんと朝食食べたのがだいたい6時とか7時くらいだから…朝ってことはないよな。ってことは今は夕方かなぁ…。」そう思いながら部屋中をさらに観察した。

 その部屋に主である人間はいなかったのだが、部屋の奥にある開け放たれたガラスの引き戸の奥から人の声が聞こえてきた。


「ごはんだぞぅ。みんなぁ。おーいでぇー。ごはんだぞーぅ。」


 老人の、男性。というかおじいちゃんと思われる人間の声だ。

その声の方に向かってチョビもプリンもミミさんもしっぽをピーンとおっ立てて嬉しそうに小走りした。
「猫ってテンション高くなるとしっぽ立つのね…。」
という事象を目の当たりにし、猫の生態について少しながらも理解した僕は、
しっぽがあんな風におっ立ってたかどうかわからないが、僕も一緒にテンション高めにその後についていってみた。

 

 ガラス戸の敷居をまたぐとそこはキッチンだった。
広さは猫目線で見ても3~4畳くらいの広さがあるように見える。オフホワイトというかアイボリーというか、クリーム色のようなカーペットの敷かれた空間の右手には、ガス台やシンクがあり、左手には食器棚があった。


 そして正面に。声の主がいた。
ベージュの長袖の肌着の上に、先ほどの座布団のような赤色の艶々した絹のような生地に金色のひょうたん模様の刺繍が施してあり、リアルファーなのかフェイクファーなのかはわからないが、襟と袖口がモフモフした白い毛をあしらえたド派手な半纏を着て、もうお酒を飲んでいるのか、その半纏と同化するほど真っ赤な顔な、まるで猿のような顔をした見たところ80歳くらいの白髪の老人だった。

「豊臣秀吉かよ!」
僕が心の中でツッコむと、真っ赤な顔の秀吉が豪快に言った。

 

「今日は宴じゃ!みな、喰え!踊れ!」
秀吉は横一列に並べた4つの、ちょっとした脚のある高級そうな漆塗りの器に、木製の船に盛られたマグロやカニや白身などの新鮮な海産物の刺身の盛り合わせを、ドゥルンドゥルンと菜箸で掻きだすようによそい始めた。


 チョビとプリンは
「もうすでに彼らの食欲が理性を上回っています!」という解説を挟む間もなく

何コレ!!おいしい!!」
「おじいちゃん!おいしい!こんなのプリン食べたことない!」

と無我夢中でがっついていた。
人間目線で見ると、彼らは「ニャウンニャウン♪」と言いながら食べているところだ。
「ちょっと。チョビ、プリン!ねぇ!いただきますしないの?ミミさん、お行儀悪いですよね?」
とミミさんの方を見ると、
ミミさんも例外ではなく

「おじいさん。これはもしかして…。鮭児ですか…!?」

と、あまりのおいしさに絶句しつつも鮭を頬張る。という動作をしていた。

しばらくこの光景を僕は呆然と第三者として眺めていたのだが

「グゥゥゥゥー。」

と不意に鳴った腹の音に我に返り、皿に盛られた刺身をチョビやプリンに負けじと野生丸出しでムシャムシャと食べはじめた。
それは、生まれて初めて食べたというか、この世のものとは思えないほどに美味かった。という鮮明な記憶
として僕に刻まれた。
美味しかったではなく、美味かったである。
 美味しい魚というのはそれこそ死ぬほど食べてきたつもりだったが、いつもとは全く違ったからだ。
きっと、生死の狭。というものを2度も経験し、そして生きるために食べる。ということに気付き、食のありがたみやおいしさという幸せについて学んだ。からなのだろう。

「あっぱれよ!うまいか我が猫達よ!」
秀吉
はそう言うとドーン!と音がなるほどに豪快に床にあぐらをかき、大きな陶器の湯飲みに先ほど封を切ったばかりの日本酒をトックトックと注ぐと、グイっと一口で飲み干した。

そして
「これにより我が孫。おにぎりの命名の儀とする!!」

とすでに酒に酔っておぼつかない呂律ながら大声で言い放った。
「…え?我が孫?おにぎり?」
最初何のことを言っているのか意味がわからなかったが、だんだんと状況的に何を意味しているのか理解した。
「ふむふむ。…なるほどなるほどー。我が孫ってきっと僕のことですね。はい。
…でさ、おにぎりってなんだよ!おにぎりって!!おい秀吉ーっ!!おーい!!」
 

命名「おにぎり」


僕は意識を失い、知らぬ間に「ココア」から「おにぎり」に名前が変わっていた。


そして僕の。いや、「おにぎり」の冒険がこれから始まる。


次話⇒<第25話

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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第23話

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<<第23話>>

 緑雲荘を後にして、僕たちはミミさんたちの住む家へと向かった。

ミミさんを先頭にして子供たち、僕が最後尾と縦列体系になって森を進んだ。

ところどころ深い雪があったが、ミミさんが雪をかき分けてくれるので小さい僕らは雪に埋もれることなく歩くことができた。

 

 靴も靴下も履いていないので、敏感な肉球はとても冷たいし寒かったが、歩いているうちに体が暖かくなってきた。

ミミさんの子供たちは1人が男の子、1人は女の子だった。

「僕ね、チョビ。よろしくねお兄ちゃん。」

「私はね、プリンだよ。チャップリンっていうとっても有名な人間の名前から取ったんだって。」

なるほど、二人とも僕と同じハチワレ模様だが口元にちょび髭のような模様がある。

「僕は創・・・、あ、いや、ココアだよ。よろしくね。」

あやうく人間の時の名前を言いそうになった。

 そういえば創太という名前は父ちゃんが命名した。親父曰く、未熟児で生まれた僕に太くたくましく生きてほしい。という願いと、創造力のある人間になって欲しいという願いを込めたんだそうだ。

「ココア?どういう意味?」

「うんとね、ココアって言うのは人間の飲み物だよ。あったかくて甘くて美味しいんだよ。」

「へぇ。プリンもココア飲んでみたいなぁ。」

するとミミさんが後ろを振り向いてたしなめる。

「だめよ。人間の飲み物は怖いんだから。お父さんも人間の飲み物を飲んで何度死にそうになったことか…。」

 下を向いてフーっとため息をついた。

「一体何を飲んだんですか?」

ミミさんは上を向いて思い出すように

「そうね。白い泡のある黄色い飲み物とか、鼻にツーンとくる熱い飲み物とかかしらね。」

と言った。

 ミミさん。そ、それは恐らくビールと熱燗ですね…。そりゃ人間でもアル中になるくらいだから猫がお酒なんか飲んだらやばいだろうなぁ。

「美味しそうにおじいさんが飲むものだからくれくれ!って。おじいさんはこれは人間の大人の飲み物だ!って結局くれなかったのだけど、おじいさんが見てないうちにコッソリ飲んだのよ。」

「おじいさん?」

「そう。人間のおじいさんで、私たちの飼主さんよ。」

「へぇ。おじいさんが飼主なんだぁ。」

「サクラさんのところのおじいさんともとっても仲が良くて、よく一緒にあのツーンとする飲み物を飲んでいたわね。」

「そうなんだ。」

じいちゃんと仲良しのおじいさんがミミさんたちの飼主らしい。じいちゃんと仲良しだったおじいちゃんがいたのか。そう言えば僕はじいちゃんやばあちゃんがこの登別の地でどうやって生きてきたのか母ちゃんやママには多少は聞いたものの、全くもって知らなかったことを痛感した。

 

 やがて森は上り坂になり、しばらくして坂を上りきるとそこは尾根になっているらしく、視界が一気に開け、登別の温泉街が広く見渡せた。向かい側の傾斜にはロープウェイがあり、眼下にはホテルが軒を連ねているのがわかる。ホテル街はザ・温泉街。という感じだ。
「お兄ちゃんあそこがおうちだよ!」
その中に古びた茶色いタイル張りの5階建ての温泉ホテルが見えた。
なるほど、ママが大きな人間の巣。と例えたのがわかる。

看板には「ホテル多吉」と書いてある。

「…オオヨシ?…タキチ?…かな?」

いずれにせよちょっと昭和で古風で幸多そうなネーミングだ。

「着いた着いたー!」

チョビとプリンが駆け足でそのホテルに向かって雪の中をピョンピョン飛び跳ねるように走り出す。

子猫のその少しぎこちない走り方やピョンピョンとした飛び跳ね方は僕の猫目線で見ても可愛かった。僕がそれにキュン!としている間もなく

「こらっ!ママから離れたらダメでしょ!」

ミミさんが二人の後ろからまるで豹が獲物を狩るように大ジャンプをして飛びつき、両手で動けないようにガッチリと二人をヘッドロックをした。

僕が「ダブル二ーブラ!」とツッコミを入れたその刹那、僕は同時に母ちゃんのことを思い出していた。
※二ーブラ!はこれ。⇒
https://youtu.be/95CC2DYsjz0


 小学1年生の時。誕生日に買ってもらった自転車を覚え、喜んで家の周りをグルグル回っていた時だ。

父ちゃんが「創太!手振って!」とか「笑って笑って!」とご自慢の一眼レフカメラ片手にグラビア撮影のカメラマンよろしく僕に色々指示をしていた。僕はブルブル震えるハンドルを必死に操作しながら、自転車という乗り物を自分の力で運転している!という実感でめちゃくちゃ高揚していた。しかし、しばらくして。後ろから大きなトラックが来たと思った瞬間だ。ブレーキを強く握るもうまく効かず、逆にそのことによってハンドルが取られ、自転車が車道へと向かって行った。すると、それまで視界にいなかったはずの母ちゃんが「あぶない!」とどこからか飛び出してきて僕の首根っこと自転車両方をものすごい力で掴み、道の脇へと引き戻したのだった。

「何してんのよ!危ないじゃない!死ぬかもしれなかったでしょ!」母ちゃんが近所にも聞こえるような大声で僕を叱った。そして僕だけじゃない。父ちゃんもめちゃくちゃ怒られて、その日は僕と父ちゃんの大好きなすき焼きだったにも関わらず、まるでお通夜のような夕食を迎えたのだった。

 

 これが猫のしつけなのか…。母は強しとは人間も猫も同じなんだな…。

そんなことを思いながらミミさんと母ちゃんを重ねていた。

「ごめんなさーい。」

二人はシュンとしている。

「森は怖い動物がいっぱいいるんだから気を付けないとダメでしょ!」

「はーい…。」

反省している様子を見てミミさんが二人をリリースする。

「ところでミミさん、怖い動物って何なんですか?」

「そうね…。犬とか熊とかキツネとかね。それと上からいきなり襲ってくる大きな鳥とかもいるわよ。」

「ええええええ!!!!」

やっぱいるんすね…。熊。そりゃぁ北海道ですものね…。それにキツネとか鳥も危険なのか…。鳥ってのは猛禽類とかそのたぐいでしょうね…。

「お兄ちゃん、知ってるの?」

「うん。やばいよー。あいつらに襲われたら絶対死んじゃう。」

ここでそんなのに襲われるわけにはいかない。人間の体なら致命傷で済むかもしれないけれど、きっとこの子猫の体じゃひとたまりもない。こりゃ注意しないといけませんわよ!

 僕たちは改めて隊列を組みなおして先ほどよりも注意深く、辺りを見回しながら、頭を低くして、なるべく小さな声でしゃべりながら山を下りて行った。

 

 山を下りきると、「登別ホテルグランデ」というピカピカで豪華なホテルがあった。そのホテルの裏手から駐車場の脇をすり抜けるとメイン通りに差し掛かった。
ここを渡れば目的地のホテル多吉だ。

 午前中とはいえ、車も走っているし、宿泊客もスマホで写真を撮りながらワイワイ歩いている。

 僕らはメイン通りを渡るチャンスを駐車場の垣根の中から窺っていた。

なかなか人も車も途切れる雰囲気もなくやきもきする。

「そっかぁ。猫には安全に渡れる横断歩道はないわけね…。」

日本の車社会といものは、人間にとっちゃ便利だけども動物にとっては迷惑極まりないものだなぁと痛感する。これは猫になって初めて気づいた視点だ。それに僕たち子猫にとっては10メートルくらいであろう道幅がまるで100メートルくらいに見えるのだ。
 一体全体、全力疾走で何秒で渡り切れるのか…。ウサインボルトが出した世界新記録は100メートル9秒63だよねぇ。子猫がこの道を9秒63で渡り切ったら子猫新記録かな…。そんなおバカなことを考えている時だ。

「今よ!」

ミミさんがいきなり走り出した。プリンもチョビもそれに続いて走り出す。

おバカなことを独り妄想していた僕は一瞬出遅れた。

「待ってよ!みんな!」

急いで追いつこうと思うも寒さのせいか足がもつれる。そして僕は凍結した路面に見事に足を取られて滑っていく。

そして視界の右側には迫りくるトラックが。

「これ。どっかで見た風景だな…。」

急に周辺の景色がスローモーションになった。

そして僕の意識はそこで途絶えた。



次話⇒<第24話

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<<第22話>>

お皿をペロペロと舐めていると綾さんがこちらの様子を見た。

「サクラちゃんもココアくんも、食べ終わったみたいね。」

「いや、まだ終わってません!」

僕はお皿を舐め続けた。

「じゃぁ、みんなでごちそうさましましょうか。ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまでした。」

綾さんの号令でおばさんもママもごちそうさまと言ったのだが、僕はまだごちそうさまと言いたくなかった。

「まだ食べ足りないのかな?ココアくん。でもね、もう終わり。ほら。片づけるよ。」

と言って綾さんがお皿を取り上げようとする。僕は綾さんの手にしがみついた。

「待ってよ、綾さん!まだ終わってないって!」

このお皿が片付いたら作戦が始まるのだ。まだ心の準備ができてない。僕は綾さんの手に噛みついた。しかし歯が生え始めたばかりの僕の噛みつきは綾さんには全然効いていなかった。

「うふふ。ココアくん、そんなに美味しかった?」

僕はお皿を取り上げられまいと必死に抵抗した。するとその時

「坊や!…やめなさい。」

ママがはじめて聞く大きな声で言ったので、驚いて振り返る。ママは目に涙を浮かべながら僕の方を見つめていた。

 

 こんな泣きながら怒る顔はどこかで見たような気がした。

そうだ。母ちゃんだ。一度だけ僕に泣きながら怒ったことがある。それは親父が亡くなって火葬場で親父の棺が炉に送り込まれる寸前。

「やめてくれよ!お父さんを焼かないで!」

と棺にしがみついて抵抗する僕を泣きながら一喝したのだ。

 その時の母ちゃんの顔にそっくりだった。

 

「ママ…。」

ママも悲しいのを我慢しているのだ。それを悟って僕は綾さんの手から離れた。

そしてフーっと息を吐いてから言った。

「ごちそうさまでした。」

ママが目に涙を浮かべながら微笑み、僕の顔を暖かい舌でやさしく舐めてくれた。

 

「さ、片づけも終わり!二人ともこっちにおいで。」

食器を片付け終わった綾さんが足湯のベンチで僕らを誘うように膝を叩いた。

 

その時、足湯の向かい側に僕とよく似た白黒模様の親猫1匹と僕と同じくらいの子猫が2匹現れ、5メートルほど先で止まった。

「サクラさん、来たわよ。」

「ミミさん、ありがとう。恩に着るわ。」

「いいのよ。おじいさんとおばあさんには私も色々お世話になったからね。」

ママはその親猫と言葉をいくつか交わすと僕の方を向いて

「さぁ、坊や、行きなさい。」

と僕をその親猫の方へ行くようにゆっくりと鼻で指した。

「うん…。」

僕はゆっくりとした足取りでその猫たちの輪の中に入った。

「あなたがココアくんね。よろしく。」

「おにーちゃんよろしく。」

「あとで遊ぼうね!」

母猫は僕の顔を舐め、子猫たちは僕に懐っこく絡んできた。

「もしかしてココアくんのお母さんと兄弟!?」

「そうなのかい!そっくりねぇ!」

綾さんとおばさんがその様子を見て頷く。

「迎えに来たのね。」

「良かったねぇ。お母さんたちに会えて。」

いや、違うんだよ。僕を産んで育ててくれたのはママなんだ。そう綾さんたちに言いたかった。

「坊や、がんばりなさい。応援してるわ。」
ママは笑顔でそう言って僕を勇気づけてくれた。 

「ママ。ありがとう。産んでくれて。育ててくれて。絶対また会いにくるから。」

「うん。待ってるわ。」

「ママ。元気でね!それと、綾さん、おばさん。ありがとう!」

それぞれの顔を見てそう言うと

「あいさつは済んだ?それじゃぁ行きましょうか。」

と親猫のミミさんに誘われて僕らは森へと歩き出した。

「坊や!振り返らずに行きなさい!あなたなら必ずできるわ!」

「ココアくーん!またね!元気でね!」

ママと綾さんの声が背後から聞こえる。振り返りたかったが、振り返ったら心が負けてしまいそうな気がして僕は涙を堪えてそのまま歩き続けた。

 

 森の中に入り、綾さんたちの視界には入らないであろうところからママや綾さんたちの様子を見ていた。綾さんはママと何やら話をしながら、ママをしばらく撫でていたが、やがて足湯から足を出してタオルで拭うと、荷物を抱えておばさんと軽トラックへ歩いていく。ママもそれにソロソロと付いていくと、綾さんの後ろからスルリと助手席に飛び乗った。

 後ろの窓から綾さんとおばさんが顔を見合わせて言葉を交わしているのが見える。ママを連れて行くのかどうか相談しているのだろう。

 そしてしばらくすると、エンジンがかかり、綾さんが助手席のドアを閉めると軽トラックはママを乗せたままゆっくりと走り出した。

「良かった…。ママ…。元気でね。」

軽トラックが見えなくなるまで僕は見送った。

 

 

 昨日の晩、僕とママはこれからのこと、そして作戦について押入れの中で話し合っていた。

「あなたはやっぱり1人で行きなさい。」

「え?なんで?一緒に行こうよ。」

「あなたはとても小さいし、守ってあげたいけれど、あなたには知恵も勇気もあるわ。それに、私は猫としてはもうおばあさんだからこの先あなたの足を引っ張ってしまうかもしれない。」

「そんなことないよ!」

「ううん。私も衰えてきたのは自分でもわかってるから。この前の検査もね、あまり良くなかったみたいだし。」

「嘘だよ!そんなの!綾さんは問題ないって言ってたじゃん!」

「いいから。聞いて。これはあなたの試練なの。あなたが自分の力でやり抜いてこそ神様も認めてくれるんじゃないかしら。」

「それは…そうかもしれないけど…。じゃあママはどうするの?ここにいると綾さんに負担になるし、ばあちゃんはもう帰ってこないんだよ?」

「分かってる。だから私は綾さんのお母さんのところに行くわ。」

「おばさんのところに?」

「綾さんのお母さんね、きっと猫を飼ってるの。」

「そんなこと、なんでわかるの?」

「服に猫の毛が付いていたし、それにあの撫でてくれるときの手つきは猫が好きな人間のものよ。」

「そうなんだ…。」

「そうよ。」

「でも、僕がいなくなると綾さん心配するよね。」

「それはね。良いアイディアを思いついたの。」

「良いアイディア?」

「そう。あなたのようなハチワレ模様の猫でね。ミミさんっていう猫がこの先の大きな人間の巣に住んでるの。ミミさんにはちょうどあなたと同じくらいの子供たちもいてね。綾さんに、ミミさんがあなたの本当のお母さんだと思わせるのよ。」

「なるほど…。」

ママや綾さん、おばさんと離れるのは辛かったが、猫神様との約束を考えると前に進むしかない。僕には苦渋の決断だったが、そうするしかないのかもしれない。

「そうと決まれば、私はミミさんにお願いしに行ってくるわ。」

「うん…。」

 

 

 こうして、作戦は無事に成功し、僕はママと綾さんと別れた。

「これも1つの試練だったのかな。」

そう思うと自分が少しだけ大きくなったような気がした。

 

そして僕の新しい試練が始まる。



次話⇒<第23話


※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第21話

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<<第21話>>



 その晩も翌
朝翌晩も、おばさんがごはんを作って持ってきてくれた。

「今日も大事をとってピンチヒッターお母さん。」

なんだそうだ。

しかし、別れ際におばさんが

「今日から綾もお休みでうちに泊まることになってるし、明日の朝は綾と一緒に来るわね。」

と言ったことで、早くも僕らの作戦の決行が決まった。

 

 翌朝。いつもママに起こされるのだが、その日はなかなか寝付けずママよりも早く起きていた。いてもたってもいられなかったからだ。そして早起きした分、尿意も早くやってくる。

「うぅー。トイレ行きてぇ…。」

チラリとママを見るが、ママはまだ寝ている。ママを起こして下に降ろしてもらうか悩んだが、これから先のことを考えると、ママに頼ってばかりもいられない。押入れの2段目から自分で降りたことはなかったが、なんとか1人で降りてみることにした。

 

 下を覗きこむと子猫視点ではやはり結構高い。

「どうやって降りようかな…。ここはやっぱり、猫らしく頭から…。いや、それは怖いだろー。まだ手も短いし絶対あごとかぶつけそうだよなぁ。やっぱお尻からかな…。こうやって。」

と降りるイメージをしながらああでもないこうでもないとウロウロしていた時だ。僕は不意に後ろ足を踏み外してしまう。

「あぶねっ!」

 瞬間的に両手で目の前にあるタオルケットを掴む。

 
 猫の手というのは人間のそれとは違って、関節が少ないし、しかも親指がない。いや、まぁあるって言えばあるんだけれどまったくと言って良いほど機能しない親指の跡みたいのしかない。そんなものだから人間や猿のように物をギュっと掴むのが難しいのだ。だが、その代わりに物を掴むように指に力を入れようとすると、爪が飛び出すのだ。
「おぉ!すげ!ナイス爪!」 
爪がタオルケットにガッシリと食い込み、僕はタオルケットにぶら下がった状態になる。 

「ふー。危なかったー。…って降りようとしてたんじゃないのか。ふはははは。」

と安堵したのも束の間。タオルケットが僕の重みで落下し始める。

「マジかーぁぁぁぁ!」

 

 こういう事故的な瞬間というのは一瞬の出来事なのに僕には何故か時間がゆっくりになって、スローモーションに映る。この瞬間に人は走馬燈というのを見るのだろう。僕の場合はただ、まわりの景色がスローモーションになるだけだけれど。僕が自転車でコケてトラックに轢かれたときもそうだったし、湖でおぼれたときもそうだった。そして今も。

 

 周りの景色がゆっくりと上に向かって流れていく。つまり僕は落下しているのだ。創ちゃん絶対絶命。

「これ…。また死ぬのか…。」

と思った次の瞬間、僕は尻餅をついた。

「痛っ!くない…。それほど。」

実際は一瞬スルッと落下しかけたものの、タオルケットと共にゆっくりズルズルと下に降りただけ。だったようだ。

「あーびっくりした。なんだなんだ。そうかそうか。うんうん。なるほどなるほど。」

誰も見ていないだろうけれど、死を覚悟した自分に少し恥ずかしくて照れ隠しをする。

 

 こうして畳の床に無事着地した僕は、次の難関である階段を一段一段なんとか下り、キャットスルーをくぐり抜け、トイレをマッハで済ませた。野犬やいつ冬眠から覚めるかもわからない熊が怖かったからだ。急いで旅館の中に戻ると、あの玄関のコルクボードの写真や寄せ書きを眺めていた。じいちゃんやばあちゃんやママの写真を見ていると、こみ上げてくるものがあったが、ぐっと堪えた。それにじいちゃんもばあちゃんも天国で応援してくれているに違いない。

「見守っててね、じいちゃん、ばあちゃん、親父。」

 

 部屋に戻ろうと踵を返すとママがすぐ隣にいたのでびっくりする。

「うわぁ!…いたの、ママ。」 

「坊や一人でできたのね。」

「うん。いつまでも甘えてられないし。」

「そうね。でも、もっと甘えて欲しいのだけれどね…。」

ママは少し寂しそうな顔をしたように見えた。

そして二人で並んでコルクボードの写真を眺めていた。

しばらくすると外から声が聞こえる。

 

「サクラちゃーん、ココアくーん。ごはんだよー。」

「サクラー、ココアー。」

綾さんとおばさんの声だ。

「綾さんたち来たみたい。さぁ。行きましょうか。」

ちょっと名残り惜しかったが、ママの先導で足湯に向かう。


 足湯のところでは、綾さんとおばさんが食事の準備をしていた。

「おはようございます。」

「おはよう。綾さん、おばさん。」

二人のもとへ小走りで向かった。

綾さんは普段どおり、ニコニコしている。

「綾さん大丈夫?」

「大丈夫ですか?綾さん。迷惑かけてごめんなさい。」

ママは綾さんの足にまとわりついて頭をこすりつけた。

僕も真似して頭をこすりつけてみる。

「二人ともごめんねー。もう大丈夫だからね。さぁ、今日はスペシャルメニューだよ!」

綾さんがタッパーからごはんを取り分け、おばさんは綾さんと自分のおにぎりを用意してから、魔法瓶からお茶を湯呑に注いだ。

 

 それぞれの準備が整うと、綾さんとおばさんは足湯に足を浸した。そして綾さんの号令。

「それじゃ、いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」

綾さんとおばさんは合掌してからおにぎりを食べ始めた。僕らのごはんは鮭と野菜の蒸し煮のようなものだった。とてもおいしそうだ。しかし、僕もママも食べはじめなかった。しばらくボーっとお皿を眺めていると

「どうしたの?これ、嫌いかしら…。」

綾さんが少し心配そうな顔をしてこちらを見てくる。それを見てママが

「坊や、いただきましょう。綾さんが作ってくれたごはんよ。」

「うん。今日はゆっくり味わって食べるよ。」

ようやく僕たちは食べ始めた。

「どう?おいしい?嫌い?」

綾さんが聞いてくる。

「おいしいです。」

「おいしいよ、綾さん。おいしい…。」

味は多分本当に美味しかったんだろう。けれど僕にはごはんの味はほとんどしなかったし、いつものようにしっかりとミキサーで細かくしてあるのだけれどいつもよりも飲み込み辛さを感じていた。普段ならばごはんとなればガツガツと一瞬で食べてしまうのに、一口一口噛みしめるようにゆっくりと時間をかけてごはんを食べた。

 そして食べ終わるといつもよりも多く何度も何度もお皿を舐めた。

「ごちそうさまでした。」

この言葉を少しでも先延ばしするように。

しかし時と言うのは無情なもので。その時はやってくる。



次話⇒<第22話



※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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