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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第27話

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はじめに


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第26話

第27話

 

僕とチョビ、プリンの3匹の子猫探検隊は一旦ホテル多吉を出てから再びホテル多吉を調べるため別の入り口から潜入した。

 

まずは実態把握のための調査だ。

ホテル多吉内が一体どうなっているのか。客室はどれくらいあるのか。従業員は何人いるのか。経営難なのか。でもってなんで閉めなくてはいけないのか?など、色々知りたかった。

 

湿気が多くてムンとしたランドリー室の洗濯カゴに隠れながら僕らは作戦会議を始めた。

んま、とにかく勢いと流れを生み出すのが大事!と僕が切り出す。

 

「プリン隊長!この建物を案内してくれるかな?」

「タイチョウって何?おにいちゃん。」

チョビが聞いてくる。

いきなりその勢いと流れが滞る。

「うーん、隊長ってのは、このチームを指揮するというか命令してチームを引っ張る偉い人かな。。。」

僕がちょっと嫌な予感を感じつつ、そんでもって言い淀みつつ返答すると、やっぱりチョビが応える。

「指揮?えらいの?タイチョウしたいよ僕も!」

「うん。。。だよね。。。じゃあ。気を取り直して。チョビ隊長!案内して!」

と言うと今度はプリンが反論する。

「ダメー!プリンがタイチョウなんだからっ!チョビは黙ってついてきなさい!」

「やだー!僕がタイチョウするんだもん!!」

 

さっそく仲間割れする子猫探検隊。。。

『父さん。登別の春は。。。とても厳しいです。。。』

 

そんなわけで、じゃんけんして隊長を決めよう!とのアイディアも猫だけに無理っぽかった。

みんなパー出しちゃうからね。。。

 

結局、数分間どっちがタイチョウするんだ問題についてあーじゃないこーじゃないとやりとりしたのち、『フロアごとの隊長交代制』という日本政府も仰天な、先鋭的かつ画期的な制度を採り入れた僕たち子猫探検隊は、まずプリンが先頭、チョビは背後の警護にあたるという役割分担でホテル多吉内を探検することになった。

 

ホテル内は天井にあるライトは消灯で22時で消えたらしく、フロアライトしか灯っておらず、結構薄暗かった。

そして障子やところどころに飾られた浮世絵や人形や掛け軸や生け花などが一層怖さというか薄気味悪さを引き立たせている。

こと、僕に至っては子供のころに両親と行った浅草の『花やしき』のお化け屋敷で号泣したことなんかを思い出しながら、サブイボを立てていた。

 

そんななか、僕が花やしきでチビったせいで、母ちゃんが新しいパンツを買って売店横のトイレで泣く泣くパンツを履き替えたことなど全く知りもしないプリンが

「お兄ちゃんあそこだよ!あそこに階段があるんだよ!」

と先頭切って走り出した。

僕の苦ーい思い出などお構いもせず。

そして追い打ちを掛けるかのように「うしろよし!」

とチョビが後方を確認し、階段めがけて僕を追い抜かして走り出した。

そう。猫ってのはそもそも夜行性の動物である。
さらに、幽霊とかお化けとかの文化なんかは、はなから無いので彼らには暗いとか怖いとかそんな感情は微塵もないのだ。
僕は子供のころから怖がりだったのにこの子らはもはや無敵に見えた。
怖いものが無いってある意味すんごい頼もしい。

 

階段はホテルの左右。というか南北の両端にそれぞれあるようなのだが、僕らはランドリー室に近い、南の階段に向かった。

そして身の丈以上もある階段を一段一段登っていった。

子猫にとって人間の作った階段ってのは結構な高さなのだが、登る分には猫的には全く問題はなかった。

 

幸い。フロアーやエレベーターホールや階段にはお客さんの気配は全くなく、僕らは最上階である3階へ、人間に見つかることなく無事たどり着いた。

 

「フー。意外と大変だったねぇ。。。ゼーハーゼーハー。」

生後2か月弱の子猫にとって、階段1段ってのはかなーり高い。

毎段高跳びしてるような感覚なわけであります。

しかーし。
僕ら猫の身体能力ってのは生れて間もなくでも非常に高いもんで。

僕らはピョンピョンとリズミカルに登っていけたのだった。
しかししかーし。
猫ってのは瞬発力はホントにんもうものすんごいんだけど、持久力が全くないんですわ。

そんなわけで2階を過ぎたあたりからはかなりしんどい状況だった。

そうこうして、なんとか3階にたどり着いた僕ら子猫探検隊は制度に基づき隊長を交代した。

 

「じゃあここで隊長交代ね。プリン隊長お疲れ様。この階はチョビが隊長ね。」

「了解しました!」

「はい!じゃぁプリンはうしろを気を付けます!」

「じゃあこの階は何部屋あるのか、各部屋にどれくらいお客さんいるのか調べるよ。向こうの端にある階段まで見つからないように行ってみよう。ゆっくり静かに見つからないようにね!」

「アイアイサー!」
チョビとプリンが右前足と左前足でちぐはぐに敬礼したもんだから、ちょっと笑ってしまう。

子猫超かわいいわぁ。

ってか、なんとか制度なんて作ったけども、結局なんか僕が隊長みたいだな。フハハハハハ。
ま、いっか。

さて、階段の踊り場から廊下の端に出るとそこには直線の、一本の長ーい廊下が目の前に広がっていた。

僕らがいるのはホテルの南側だった。

で、西側は窓にあるんだけれども、窓にはカーテンではなく障子がはめられていて超和風な作りだった。

そんなもんで外の様子は全然見えなかった。


障子のはめられている反対の東側には客室が並んでいた。

僕らのいる南側の階段から北側の階段までは猫目線でもかなり遠く感じる距離だった。

でも、良く見ると各部屋のドアが入り組んだ構造になっているため、万が一人が出てきてもすぐに隠れられそうだ。


「じゃあ行こうか。」

僕が声をかけると、チョビが慎重に歩き出す。

毛足の長い絨毯が敷いてあるので足音はほぼしない。

僕が「あ!」と言うと、チョビもプリンもドアの前にサッと身を隠した。

 

いいぞ子猫探検隊!

 

「いいね、チョビ、プリン。今のは練習だよ。この調子で行こう。繰り返しになるけど部屋の数を数えて。それと耳をすませて中に人間が居そうな部屋がいくつあるか、中に何人いるかも確認してね。音とか声をよーく音を聞いてね。」

「アイアイサー!」

今度は右前足で敬礼がそろった。
ってかこの状況。もはや隊長が誰だかわからない。


結局。このフロアでは人間に見つかることもなく無事に調査を終えた。

客室数は6部屋。お客さんの居るであろう部屋は半分の3部屋。人数は一部屋につき2人。合計6人だった。

やっぱカップルや夫婦で来てるお客さんが多いようだ。

 

そして僕らは下階の2階へ降りることになる。

階段を下りるというのはそりゃあもうかなり怖かった。

登るよりも全然怖い。

「お兄ちゃんついてきて。」

プリンが前足からズンズン、スタスタ降りていく。

それに後方確認役のチョビも我さきにと僕を追い抜いていく。


「待ってよ!」

僕は高くて怖くて階段にしがみつくように後ろ足から一段一段慎重に折りていた。

緑雲荘から進歩してねぇー。

でも、ここで死ぬわけにはいかないからね。安全第一ですわよ。ふははは。。。


しかし、そこで辛辣な。逆パワハラともとれるような言動が発せられる。

「お兄ちゃん。。。遅いよ。。。それにかっこわるい。」


チョビが階段の折り返しになる踊り場で僕を見上げながら見下すようにつぶやいた。

「な、なぬっ!!」

チョビの一言に僕の自尊心が超揺さぶられる。

 

人間だったら何でもない階段が、こんな生命の危機すら感じるアスレチックになるとは思いもしなかった。

 

「チョビくん。お兄ちゃんはね、前足が痛いからゆっくり降りてたんだよ。こんな階段なんでもないんだよ。ホントはね。」

と諭すように見栄を張った手前。僕は彼らも絶句するほどの降り方をせざるを得なくなった。

 

「はーい。みなさーん。人生ってか猫生生きてく上でね。見栄はね。張っちゃだめ!」

これテストに出まーすよー。

 

さて、そんなわけで僕は見栄を見栄でなくすべく2段降り。名付けてスクリュードライバーなる蒲田行進曲のヤス(おやじが好きでよくDVD見てたなぁ)をも凌ぐ、決死の『階段落ち』ならぬ『階段降り』を彼らに披露することになる。

 

「うん。そもそもここから見えないね。2段下。』
猫の視点というのは異常に低い。
言うなれば人間の膝とか脛に目が付いてるような高さだからね。
そういや、こういうアングルどっかで見たなぁ。。。
そうだ!前にスポーツ番組で見たスキージャンプってこういう感じだったわ。
ジャンプと言いつつね、あれ、めちゃくちゃな高さからすんごいスピードで落ちて行ってるんだよね。
てかまさに僕はそのスキージャンプのジャンプ台に立つ気持ちだった。
「ここは俺の人生のラージヒル。沙羅ちゃん見ててね。俺も飛ぶぜ!ここ北海道で!」

などと、くだらないギャグをかましつつ、平静を保とうとする。そしてかっこ悪いお兄ちゃん返上のため僕は決死のジャンプしたのだった。


「んもう、どうにでもなれやぁーーーー!!!」

とジャンプすると、なんと丁度よく階段2段下に着地できた!


「うおぉぉぉーできた!このままもう一回ジャンプだ!とぅ!」


さらに、そして意外にも上手く着地する。

「おっし!いいぞ!でかした俺!いけ!このままもう一回だ!!えーーーーい!!」

 

とさらに踊り場1段手前の2段下にうまく着地した!ものの!!

その勢いが止まらない!全然止まらない!!
「ぬあぁぁぁぁぁ!」

 

そこで僕は何度も見た光景を見ることになる。


「ああ。まただ。スローモーションになってる。。。」

 

僕の視界がスローモーションになってモノクロに天と地を映し出していた。

スローモーション。それは僕が死ぬ間際に見る今世最後の映像なのだ。

僕はその瞬間、死を覚悟し、さらに猫神様との再会をも覚悟していた。。。

 

しかーし!!次の瞬間。なぜかスローモーションが解除され、体がうまく回転して着地がピタッと決まった。

 

『10.0。10.0。10.0。10.0。10.0。10.0。』

内村航平もびっくりの満場一致の満点が出た瞬間だった。

きっとNHKのアナウンサーもここにいたなら

「おにぎりが見せるスクリュードライバーはーっ!・・・栄光への架け橋だー!」と言っていたに違いない。うん。そうだよね。ニャン。


その着地は、かなりアクロバティックだったらしく、チョビとプリンが

「お兄ちゃん。今のどうやったの!?」

と口をあんぐりとしている。

 

猫という動物は本能的に体を足から着地するように捻るようで、それがかなりアクロバティックに決まったようだ。

 

「ふはははは。見たか君たち。お兄ちゃんのスクリュードライバーを。」

 

そんな技の名前初めて言ったが、よくよく考えてみたらそれってカクテルの名前じゃねえかよ。と今更ながら自分ツッコミしてる間もなくチョビが

「スクリュードライバーかっちょいい!」

と賞賛した。

実際自分でもどうなってたのかスロー再生VTRで見てみたかったが、誰も撮ってないわよね。うん。てかニャン。

 

そんなテレビなら高視聴率50パーは稼ぎそうな、youtubeなら100万回再生も夢ではないコンテンツをふいにしながら、僕ら子猫探検隊は隊長交代制により、2階フロアを探検することになる。


今度はプリンが隊長になる番だ。

 

「いくわよ!」

サササササササササササ

 

プリンが体制を低くして一つ目のドアへと走っていく。

それに続く僕とチョビ。

スクリュードライバーに感化されたのかわからないのだが、偵察行動がサマになってきた。

北側の階段の踊り場から見ると、2階は3階とは違ってドアとドアの明らかに間隔が狭いように見えた。

つまりこの階は部屋数が多い。ってことかな。

そんなことを考えつつ、部屋数を数えていく。

 

そして4部屋目まで行ったところだった。

背後で「カチャッ。」というドアが開く音がする。

「隠れて!」

背後の警戒をしていたチョビが言う。
5つ目の部屋のドアの前に僕とチョビが走り込み隠れるが、先を行くプリンは6部屋目のドアが開いていたようで、やむなくドア前を回避し、ジャンプして障子の隙間へ隠れること選択した。

しかし障子の窓は意外にも高く、プリンは上半身は窓枠にしがみついているものの、下半身はバタバタしていた。爪が壁を引っ掻いてカシャカシャ音が鳴る。

「プリン早く隠れて!」と僕が言う。

きっと「ニャニャニャーン!ニャンニャンニャン!」とでも人間には聞こえていたと思う。

ドアを開けて出てきた中年くらいの女性と思われる人間が猫語とプリンがもがく音を聞いて

「え?怖い。何かいる。え?何々!?怖いんだけど!」

と言ってまた部屋へ戻ていった。

そして背後でバタンとドアを閉める音がした。


「ふぁー。やばかったな。見つかるとこだったわ。」


そんな危機を乗り越えつつ僕たち子猫探検隊はその先も人間に見つかることもなく(ある意味見つかってるけど)2階フロアの調査を終えた。


このフロアには12部屋あった。つまり上階とは倍の客室があったのだ。

そして客室にいるのは恐らく5部屋で9名だった。

上階含め、8部屋が埋まっているということになる。6部屋+12部屋で18部屋がホテル多吉の総部屋数ということ。8/18が部屋の稼働率。総客数は15名ってことがわかった。

 

僕らはさらに1階の浴室や喫煙ルームや卓球台やゲームのあるアミューズメント室や自動販売機室やお土産コーナーやフロントを調査した。

 

結果。ホテル多吉はまず、

「普通ーーーの昔ながらの小さな昭和の温泉ホテル。」
ってことがわかった。
さらに満室でないってのは
「繁盛してるわけではないのだろう。」

ってことも子猫であり、人間なら高校生でもある僕にもわかった。

働いてるのは今のところ、秀吉とカツさんの2人のみしか確認できていないが何人くらいいるのだろうか。収支の具合はどんなんだろうか。そんでもってなんで『閉める』のか?

 

そんな疑問は数日後に判明することになる。

【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第26話

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第26話

 

 

とんでもない秀吉のつぶやきとは「再来月でここも閉めなきゃならんかなぁ。」

という一言だった。


「え?閉める?」

 

僕はその一言に反応してしまったのだが、ミミさんと子供たちは我関せずという感じでリラックスしていた。

『閉める』の意味がわかっていないのだろうか。

それとも秀吉の

『閉める』

という独り言を聞き流しているのか。

それともそれとも

『閉める』

ってことを全然聞いていないのか。

それともそれともそれともそもそも実は

『閉める』

ことを前々から知っているのだろうか。

 

…いずれにしても、ここをなんで閉めるんだ?


今は僕の計算では3月17日だ。
春休みだし丁度、観光シーズンでこれからめちゃめちゃ忙しくなるはず。
再来月ということは5月のゴールデンウィークなんかもきっと稼ぎ時だし、その5月が終わったら閉めるということ?ってことはあんまり儲かってないのかなぁ…。

そんなことを考えていたが、考えてもしょうがない。
よし!んもうこの際、直接聞いてみよう!秀吉に直接問いかけてみる。

「ね、秀吉。なんで『閉める』の?」


「おぉ。おにぎり。なんだ?」

おぉっ!!いきなり秀吉が呼応する。
こいつもしかして猫語わかる人!?

「ホテル多吉儲かってないの?」

多分というかもちろん人間には僕がニャニャニャ、ニャーンニャン?としか聞こえていないはずだが!
どうだおい!


「そうか。熱いか。よし、そろそろ出るか。」


ぬぁー…。やっぱり通じてないですね…。そうですね…。

 

秀吉は湯船からゆっくりと出ると僕たちを洗面器から取り出して洗面器をシャワーで流すと脱衣所へ向かった。その後をみんなで追いかける。脱衣所に出ると、秀吉に半ば強引にバスタオルでぐりぐり、ゴシゴシと体を拭いてくれた。

「いて、イテテテテ。痛いよ秀吉っ!」


手つきは悪くないんだけど力が強いんだよなぁ。。。

タオルドライをされた僕らはプリン、チョビ、僕、ミミさんという順に秀吉にドライヤーで体を丁寧に乾かしてもらった。

シャンプーや石鹸なんかは全然使っていないのだが、僕らの毛はフッカフカになった。


「このお湯はね、ノミもダニもやっつけてくれるんだよ。お風呂に浸かると痒いの飛んで行っちゃうんだから。」


ミミさんが力説したが、なるほどそれも頷ける。寒い季節だからか、僕の体にはノミもダニもついたことがないのだが、僕の全身の毛は少しベタベタしていた。しかしドライヤーで乾かした僕の体は今やフワフワの小鳥の羽毛のようだった。石鹸やシャンプーで洗ってもいないのに、こんな洗いあがりになるのは温泉の効果なのだろうか?

 

 そんなことを考えているとまたあの籐の籠に入れられて僕らは秀吉の部屋へ戻って行った。来たときに見た喫煙ルームのあの男性はすでにいなかった。 しかし、ここを『閉める』ってなんでだろう。『閉める』と僕らはどうなるんだろう。カツさんはどうなるんだろう?秀吉はそれは本意なんだろうか?そんなことを考えていたら僕は赤々と光の灯るこたつの中でいつの間にか眠りについていた。

 

翌朝。秀吉の威勢の良い声で起きる。

「我が猫達よ。朝飯だぞ!起きろー。」

「う。うん…。眠いけど…。メシ。食べます…。」

昨晩あれだけ食べたのに翌朝にはものすごくお腹が空いていた。

日々生きている。という実感もあるが、それよりも生きなきゃ。食べなきゃ。という義務感に手を引かれて半ば強引に瞼を開く。

 

 すると、そこには白衣に身を包み、お寿司屋の大将みたいな格好の秀吉が仁王立ちしていた。そして仁王立ちした秀吉はゆっくりと優しく目を閉じ、右手の人差し指を立てて雅楽を奏でるように言ったのだった。「今日の朝ごはんは鮭の煮物。利尻昆布の香り。」

それはとてもメロディアスで心に響いた。

 

さらに響いたのが次の一節だ。

「さぁ、我が猫たちよ。朝だぞ。たんと喰え。喰って喰って今日一日を幸せで悔いのない一日にせよ。」

喰って喰って、喰い(悔い)の無い一日にせよ。って…。つまりこれは掛詞だ。

ずいぶん前に国語の授業で習ったな。こんな洒落た日本語を朝から聞いてなんだか少し秀吉の教養というか日本人の古き良き部分を肌で感じた僕は、秀吉という人間にどんどん惹かれていくのだった。

 

しばし感銘を受けつつ呆然としていると 

「いただきまーす!」ハムハム…。気が付くとプリンとチョビとミミさんがすぐ隣でものすごい勢いで鮭を頬張っているのに気付いた。

「な、なにーっ!いつの間っ!!」

動物に油断は禁物なのだ。常時弱肉強食モード。感傷に浸ってる暇はない。

僕も負けじと鮭を頬張る。

しかし…。頬張った瞬間。その鮭は今まで食べたことのないものだったので、常時弱肉強食モード!油断は禁物!と肝に命じたはずの僕は鮭を噛むことも忘れて固まってしまった。

 

「こっ、この柔らかさ…。フッカフカじゃないか…。口の中でホロホロと崩れていくこの感触。まるで鮎を食べているようだ…。これが鮭だとっ!?そして、この奥深い旨味は…。ま、まさか北海道利尻産の昆布で煮ているからなのかっ!!」

鮭と言えば、毎年年末にじいちゃんから送られてくる新巻鮭や、店で売れ残った塩鮭などカチカチのしょっぱい鮭ばかり食べてきた僕にはその鮭の美味しさは衝撃的だった。

 

 そりゃぁさすがにさすがに魚屋のセガレだけあって生鮭なんか何度も(?)食べることはありますよ。ありますわ…。ええ。んでもね、これほどまでに新鮮でかつ、味に奥行のある鮭は今まで食べたことがなかった。

「すげえな…。秀吉…。こんなに魚を美味しくできる料理人なんだな。」

そして僕はこの美味しい魚料理を噛みしめながら昨日のことも同時に考えていた。

「こんなに料理の美味いホテルが『閉める』ことになるなんて…。一体どうしてなんだろう…。」

 

 そういえば僕はこのホテル多吉の状況についてはそれこそほとんどと言って良いほど把握していなかった。今までわかっていることと言えば

1.ホテル多吉は登別温泉のメインストリート、ついでに言えば『登別ホテルグランデ』の真正面に位置している。

2.秀吉は多分「ホテル多吉」のオーナー。

3.秀吉の私室、というか管理人室にてミミさん一家と僕は暮らしている。

4.カツさんというメガネ中年男性の従業員がいる。

5.猫がいることはお客さんには秘密にしておかなくてはいけないみたい。

6.温泉はヌルヌルしていてかなり気持ちいいしノミもダニも取れちゃう。

7.秀吉の料理は超一級品。

以上だ。

 

…そして僕は更なる状況把握に努めるべく、チョビとプリンとホテル多吉探検を始めた。本当はミミさんにホテル多吉について色々聞いたり、調査することを直接お願いしたり相談したのだが、

ミミさんが

「私は最近あの穴にお尻が通らなくて…。チョビとプリン。お兄ちゃんに色々教えてあげてね!」

と半ば言い訳がましく強引に小柄な子猫同士での行動を後押しして不貞寝したのだった。
女心って猫も複雑なのね…。そう思わずにはいられない一コマだった。

 そんなわけで緑雲荘からの道程、あれほどまでに警戒心の強かった母猫が僕ら子猫たちだけに行動せよ。と言ったのには色んな意味で違和感を感じたが、僕らは結局、子猫3匹で館内探検をすることになった。

僕らの住む恐らく管理人室というかオーナー室と思われる部屋の勝手口には緑雲荘にもあったキャットウォークがあった。そこから猫は自由に外に出られる仕組みになっているのだが、その外からホテル館内に侵入できる秘密の抜け道があった。

「お兄ちゃん、こっちだよー。」


チョビとプリンに『その抜け道』に案内してもらった。
恐らくボイラー室なのだろう。何本もの配管が走っていて、換気扇からだけではなく、古くなった配管ところどころから蒸気がもくもくと立ち上がっているところがあった。
そんなボイラー室と思われる部屋の、コンクリートブロックでできた基礎の間には猫一匹がぎりぎり通れる穴があった。

その穴に慣れた感じでチョビもプリンも何の躊躇もなくスイッと入っていった。

「えぇーっ!?怖くないの!?ちょっと待ってよ!!」

僕も顔を恐る恐るその穴にねじこんでみた。しかし、真っ暗だ。
「お兄ちゃん大丈夫だよ。」
の声に、感覚的に(つまり野性的に)チョビとプリンの真似をして両手両足を畳んで思い切ってジャンプしてみた。
すると、意外にも僕のジャンプが綺麗だったのか全く体のどこもぶつけることもなく僕は穴の中へと入って行けた。

 

猫とは不思議なもので。

顔というか、『髭』が問題なく通る穴には体もスッと入れるのだ。

逆に言うならば、『髭』の引っかかるような穴には体もつっかえる。
つまりつまり。『猫の髭は体が通れる幅を測るアンテナ』なんだ!ということを体感した瞬間だった。


さて
。そんな猫の生態雑学は置いておいて。
僕らはその薄暗いボイラー室の縁の下に侵入した。すると何メートルか先にスポットライトのように光が差す穴があるのが見えた。その穴まで行ってみると、なるほど子猫がギリ通れるくらいの穴だった。
その穴をよじ登り、僕らはホテル多吉への潜入に成功したのだった。


そこは明かりが煌々としていて、大型の洗濯乾燥機が5台ほど並んでいた。

「ランドリー室」とでも言うのだろうか
轟音を立てて回る洗濯機の前には
シーツや浴衣やタオルなどが雑多に見栄えも悪く渦高く積まれてたカーゴが順番待ちをしていた

このランドリー室は乾燥機の熱のせいかかなりの暑さだった。そしてその暑さを逃がすためなのか、この部屋にはドアが無かったので、すんなりホテル多吉館内へと僕らは入ることができたのだった。

しっかし、んまぁそういうわけで。我々生後一か月程度の『子猫探検隊』はホテル多吉の実態調査をしていくことになるのだが、それは困難を極めた。

ここから
僕の人生、いや、僕の猫生はトム・クルーズ顔負けの…『ミッション・ニャンポッシブル』へと移行していくのである

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<<第20話>>



 僕たちはおばさんが白い軽トラックに乗って帰って行くところを見送ると、トイレ経由で押入れに戻り、食後のグルーミングをした。

 

 何から話せば良いのだろう。

 

 グルーミングをしながら何から話すべきか、どう説明すべきかずっと考えていた。しかしあまり考えていると、食後だしすぐに眠くなってしまう。とにかく早く話さなければ。

 

「ママ。」

「何?坊や。」

「あのね、お話しがあるんだけど。」

「何かしら。お話しって。」

「驚かないで聞いてほしいんだけど…。」

ふー。と一旦深呼吸してから僕はママの目をまっすぐに見て話し始めた。

「ずっと話すかどうか迷ってたんだ。…実はね。僕、人間の生まれ変わりなんだ。」

「え?人間?」

ママは首を一瞬かしげる。

「僕はね、ママに産んでもらう前、人間だったんだよ。」

「そうなの…。」

もっと驚くかと思っていたけれど、ママがそれほど驚かなかったことに逆に驚く。

「あれ?びっくりしないの?」

「いいえ、ちょっとびっくりはしたけれど、なるほどね。と思ったのよ。」

「なるほどね…?」

「そう。私もいつか話さなきゃと思っていたのだけれど…。実はね、坊やを生む前の日。ふと目が覚めると目の前に神様がいたの。」

「神様…?」

「真っ白くて大きな猫の神様がね『サクラ。お前に使命を与える。』って言うのよ。」

「猫神様だ…。」

猫神様の顔が一瞬脳裏をよぎった。

「使命って何ですか?って聞き返すと、そのままぼんやり消えてしまったの。そして次の日、急にお腹が痛くなってこのまま私は死んでしまうのかしら。と思ったら坊やが生まれたのよ。」

「えええええええ!!」

僕の方がびっくりした。綾さんがママは不妊手術をしているので、僕はママの子じゃないと言ってから、僕を産んだのは別の猫かもしれないと思っていたからだ。しかしママは不妊の体で聖母マリアのごとく神の啓示とともに受胎し、翌日僕を出産したというわけだ。だから僕には父猫がいないし兄弟もいない。今までのモヤモヤが一瞬で晴れた。

「坊やは赤ちゃんなのにすぐにしゃべれるようになったし、頭は良いし、色々知っていたから。あなたは神様から授かった神の子だと思ってたのよ。」

「そうだったんだ…。」

「ごめんなさい。遮っちゃって。お話しの続きを聞かせて。」

「うん…。」

 

 僕はもう一度深呼吸をして話し始めた。

「僕はね、青山創太っていう人間の高校生だったんだ。」

「あおやまそうた…。」

「ここの、緑雲荘のじいちゃんとばあちゃんの孫なんだよ。」

「孫?」

ママは今度は本当に驚いたようで、その大きな目をより大きく見開いた。

「僕は、ここに人間のときに何度か来たことがあるんだ。ママとはほとんど会わなかったけれど。」

「おじいさん、おばあさんの孫…。」

「そう。男の子だよ。覚えてる?」

ママは目をつむって一生懸命思い出そうとしているようだ。

「親父がね、猫が大嫌いだったから、ママはいつも僕らのことを避けていたように思う。」

「ああ!思い出したわ!怖かったから近づかないようにして、遠くから見ていたわ。あの男の子が坊やなの…。」

「うん…。」

 

 そして僕は普通の男子高校生だったこと、自転車で転んでトラックに轢かれてしまったこと、三途の川に行ったこと、猫神様とのやりとりをママに話した。

「そうだったの…。私はあなたを生む使命、そしてあなたは猫として生きる試練を神様に授かったのね。」

「そうなんだ。」

「でね、大事な話がまだ2つあるんだ。」

「大事な話?」

「そう。大事な話。どうしてもママに話さなくちゃいけないんだ。」

一呼吸置いてからゆっくりと話しはじめた。

「まずひとつ目だけど。…ばあちゃんはもう亡くなっているんだよ。」

「えっ!?」

とママは口を半開きのまま絶句してしまった。

「ばあちゃんはね、去年の夏に運ばれた病院で亡くなったんだ。」

「うそ!だってお葬式だってしてないし!」

ママは少し興奮した感じで言い返してきた。先ほどまでとは打って変わって信じられないという顔をしている。

 

 それもそのはずだ。じいちゃんが亡くなった時は緑雲荘で葬儀をしたし、ママがじいちゃんの亡骸に悲しそうに寄り添っていたのを何度か見ている。しかし、ばあちゃんが亡くなった時、同じく緑雲荘で葬儀をしたのだがママの姿はどこにもなかった。当時はサクラは世話をしてくれる人がいなくなったので、もうどこかに行ってしまったのだろうと話していたのだが、この前綾さんの家にいる時、その理由に気が付いたのだ。

「ママがね、知らない人に何か食べ物をもらって、食中毒になって病院に行って、病院と綾さんのおうちに何日かいたでしょ?多分その時に、ばあちゃんのお葬式をしたんだよ。だからママが帰ってきたときにはもう、ばあちゃんはいなかった。もう、ばあちゃんはいくら待っても帰って来ないんだ。」

「…そうだったのね…。おばあさん…。ごめんなさい。」

ママの目からは涙が溢れてきた。ママはその涙を切るように強く瞼を閉じて、布団に顔を擦りつけるようにしてすすり泣いた。

「ママ…。」

なぐさめるようにママの顔をしばらく舐めていた。

 

 少しするとママは顔を上げた。

「ごめんなさい…。もしかしたら、そうなのかもしれないと思っていたのだけれど、信じたくなかったし、おばあさんを待つことが私の生き甲斐みたいになっていたから。」

「わかるよ…。」

「…いいわ。続きを聞かせて。」

「もう1つね。僕はね、東京までどうしても帰らないといけないんだ。」

「とうきょう?」

「うん。東京。そこに母ちゃんがいるんだよ。」

「人間のお母さんね?」

「そう。人間の。」

「そこは遠いのかしら。」

「うん。めちゃくちゃ遠いよ。」

「会いたいのね、お母さんに。」

「うん。会いたい。会いたいし心配なんだ。それにきっと東京へ行くのが僕の試練なんだと思う。」

「そう…。わかったわ。私が力になるわ。」

そう言うとママは僕を抱きしめた。

「ありがとう。ママ。」

 僕はママに抱きしめられたまま眠りに落ちていった。

 

 目覚めると、二人で交互に僕が人間だった時のことや、じいちゃんばあちゃんのことなどをいっぱい話した。じいちゃんやばあちゃんの話は懐かしくもあり、少し悲しくもあった。僕が全く知らないじいちゃんとばあちゃんのエピソードがいっぱいあったし、二人がママのことをまるで我が子のように愛し、可愛がっていたことが本当によくわかったからだ。

 

 それから、僕らはこれからどうするべきか話し合った。ママはばあちゃんが帰って来ないとわかった今となっては、緑雲荘が名残惜しくはあるけれど、ばあちゃんを待つ必然性が無くなったので、いつ旅立っても良いということだった。

 

しかし課題がいくつか出てきた。

 

 まず第1の課題。それは毎日僕らの面倒を見て倒れてしまった綾さんに負担にならないようにする。ということ。
 第2の課題は、綾さんに心配をかけずにいかにして綾さんのもとから旅立つかということ。きっと綾さんはいきなりいなくなったら心配して僕らを探すに違いない。

 そして最大の課題は、どうやって東京まで行くのか。ということだった。

 

 しかし、一人で思い悩んでいるよりも二人で考える方がやはり良いアイディアというのは出るもんで。二人よればもんじゅの知恵!ん?

 

 こうして僕らはある作戦を思いつき、実行に移すことになる。



次話⇒<第21話


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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第18話

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<<第18話>>



僕が見たとてつもないもの。

それは普通ならば見落としてしまいそうな、ちょっとしたものだった。

 

 綾さんのまとめているレポートの内容は現在あの動物病院に入院する猫や犬の診察方法や診断結果、経過をまとめたものだということがなんとなくわかった。

 写真にはあの病院で会話したチョコくんやミーちゃんの写真などもあった。いずれも予後は良好。と書かれていたので一安心したのだが、そこでホッとして視線を落としたその時だ。パソコンの画面の下にあるタスクバー。その右側の時計に何気なく目が行った。

 そこには22:36と表示されていた。

「もう10時半過ぎだよ綾さん…。」

と思ったのも束の間、その下段の日付表示が鮮明に目に飛び込んできたのだ。

2015/3/10。…あぁ。今日はもう310日かぁ。って、ええええええ!!2015年!?」

 僕がヤマジョとカラオケをして、事故を起こし、三途の川に行ったのは忘れもしない、201624日だ。今年のバレンタインは絶対にチョコを貰うんだ。と光一と淳平と色々画策していたことを思い出す。

 日付表示が本当だとすると、僕が以前ママの発言から仮定していた通り、僕は事故から1年前に生まれ変わったことになる。しかも、僕は今日病院で白髪眼鏡先生にだいたい生後67週目と診断された。24日から310日までは34日。5週目いっぱいとなるが、僕が1人でママの母乳を独占して飲みまくって普通の仔猫の平均よりも成長が少し早かったのだとすると、辻褄も合ってくる。

 

 「僕はやっぱり1年前に猫に生まれ変わったんだ…。」

 

 僕に与えられた猶予は1年間と猫神様は言っていたけれど、僕はあの日、24日までに魂を磨けば、もしかしたら元に戻れるのだろうか。今、人間の僕は何をしているのだろうか。淳平や光一とおバカなことをしているんだろうか。そして母ちゃんは1年前と同じように元気にしているのだろうか。色々なことが頭を駆け巡った。

 しかし、何にせよ僕がとにかく魂を磨かない限り、猫神様は上に話を通してくれないということには変わりない。1年間、というかもう残り11か月弱。この姿で魂をどうやって磨けばいいんだろう…。などと考えていたら、鬼のように勉強する綾さんとは対照的にいつものように僕はどっぷりと眠りに落ちて行った。

 

「サクラちゃん、ココアくん。ごはんだよー。」

と綾さんに起こされて目が覚める。

 いつの間にかダンボールベッドの中にいたようだ。僕とママは段ボールから這い出してリビングへと向かう。

テレビの上にある時計は朝の6時を指していた。

「綾さん…。早いよー。」

とつぶやきながら重い瞼をパチパチしながらごはんの前まで歩いていく。

すでにお盆の上に僕らのごはんとお水、こたつの上には綾さんのごはんが並べられていた。

6時と言うことは綾さんはもっと早くから起きて食事の準備をしていたのか…。それとも昨日レポート書いてたし、もしかして寝てないんじゃ…。

 

 そんな心配をしつつ、昨夜と同じように僕らは3人で一緒に食事をした。そして食後、ママとこたつの中で食後のグルーミングをしている時だ。綾さんが食器を片付け終わり、こたつに戻ってきてテレビのスイッチを入れた。そしてニュースの音声が聞こえてきた。

「今日で東日本大震災からちょうど4年になります。」

その音声に反応して、こたつから這い出してテレビを見た。

テレビでは、東日本大震災の当時の模様や、今現在の被災地の様子、復興の状況などが映し出されている。

 あれは2011年の出来事だ。ちょうど4年ということはやはり今日は2015年。そしてあの忌まわしい震災の起こった311日ということになる。

 4年前。僕にとっては5年前だが当時のことはよく覚えている。僕は小学校6年生で、卒業制作のオブジェの仕上げを6年生全員で体育館でしていた時だった。大きな地震があってみんなで校庭に避難し、そして急遽集団下校をした。それからしばらく流通が麻痺したり、魚の仕入れが困難になったり、計画停電があったりで、うちの店はしばらく閉店する羽目になった。

 そしてその年の夏。中学生になった僕は、震災の影響で観光客が減ったのか、「部屋が空いているから遊びにおいで。」と招かれて夏休みに1人で緑雲荘に遊びに来たのだ。そしてそこで出会ったのが綾さんだった。

 

 今ここでこうして綾さんにお世話になっている事にすごい運命的なものを感じた。いや、それとも猫神様がわざとこうなるようにしたのか…。とにかく今日は2015311日。僕の命の猶予は残り330日。ということだけは改めて明確になった。

 しばらくテレビを眺めながら考え事をしていて体が冷えた僕は、こたつの中に戻ると

 

『子猫+食後+あったかい=強力な眠気』

 

という方程式に抗えず、そのまま眠りに落ちてしまう。

 

「サクラちゃん、ココアくん、そろそろ行くわよ。」

という声とともに綾さんにいきなり寝ているところを抱き上げられて、キャリーケースの中にママと一緒に入れられる。

 そして大変残念なお知らせが。綾さんはすでに部屋着のスエットからバッチリ着替えていた。ラストチャンスを逃し、トホホ。とうなだれる僕を知ってか知らぬか、ママが慰めるように舐めてくれた。

 

 アパートを出ると外はやはりめちゃくちゃ寒かった。大塚産業株式会社札幌支店の看板のある通りを抜けて駐車場に着くと、綾さんは助手席側のドアを開けて僕らのキャリーケースを助手席に固定した。そしてドアを閉めると運転席側に回り、ドアを開け、運転席に座ると

「すぐ温かくなるからね!ちょっと我慢してね!」

と言ってエンジンをかけ、エアコンをマックスにした。そしてドアポケットから何やら取り出すと、一旦外に出て車のガラスをそれでガリガリ擦り始めた。フロントガラスに霜が付いているのだ。さすが北海道。3月でも氷点下らしい。寒いわけだ。

 

 綾さんは車のガラスの霜を取り終えると運転席に戻ってきた。

「準備オーケー!それじゃぁ出発進行!」

カーステの再生ボタンをオンにすると、アクセルと同時にいつものように浜省の曲が車の中に流れた。綾さん浜省好きだなぁ。ちょっと古臭いよなぁ。などと思って最初は聞き流していたのだが、ある曲の歌詞が突然心に突き刺さった。その曲は「家路」というバラードだ。歌詞は大人の事情で載せられないので、要約すると「超疲れてても、すんごく孤独でも、めちゃくちゃ離れてても絶対にあの場所へ帰ってみせる。」というもの。

 うん。大人の事情って大変。

 

 そんなわけで浜省の「家路」に心を打たれて、その歌詞の意味や僕のこれからのことをずっと考えていた。そして導き出した答えは

 

「やっぱ、2月4日までにどうにかして家に帰ろう。」

 

だった。綾さんとずっと一緒にいたいけれど、別れるのはさみしいけれど、もし元に戻れなくてこの命が終わってしまうのならば、最期にはどうしても母ちゃんに会いたい。

 それにもし万が一、元に戻れるのならば、あの日をやり直せるかもしれない。そして人間として、青山創太として綾さんに会いに来ればいい。

 しかしこの雪の残る氷点下の北海道をこの小さい体で旅立つというのは自殺行為かもしれない。良く計画を練って準備しよう。そして出発までにできるだけ大きくなろう。

 

以前同じことを考えていたが、改めてそう決心し、僕の目標は明確になったのだが、そんな矢先に事件が起こる。


次話⇒<第19話


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