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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第20話

<<これまでのお話>>

はじめに


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<<第20話>>



 僕たちはおばさんが白い軽トラックに乗って帰って行くところを見送ると、トイレ経由で押入れに戻り、食後のグルーミングをした。

 

 何から話せば良いのだろう。

 

 グルーミングをしながら何から話すべきか、どう説明すべきかずっと考えていた。しかしあまり考えていると、食後だしすぐに眠くなってしまう。とにかく早く話さなければ。

 

「ママ。」

「何?坊や。」

「あのね、お話しがあるんだけど。」

「何かしら。お話しって。」

「驚かないで聞いてほしいんだけど…。」

ふー。と一旦深呼吸してから僕はママの目をまっすぐに見て話し始めた。

「ずっと話すかどうか迷ってたんだ。…実はね。僕、人間の生まれ変わりなんだ。」

「え?人間?」

ママは首を一瞬かしげる。

「僕はね、ママに産んでもらう前、人間だったんだよ。」

「そうなの…。」

もっと驚くかと思っていたけれど、ママがそれほど驚かなかったことに逆に驚く。

「あれ?びっくりしないの?」

「いいえ、ちょっとびっくりはしたけれど、なるほどね。と思ったのよ。」

「なるほどね…?」

「そう。私もいつか話さなきゃと思っていたのだけれど…。実はね、坊やを生む前の日。ふと目が覚めると目の前に神様がいたの。」

「神様…?」

「真っ白くて大きな猫の神様がね『サクラ。お前に使命を与える。』って言うのよ。」

「猫神様だ…。」

猫神様の顔が一瞬脳裏をよぎった。

「使命って何ですか?って聞き返すと、そのままぼんやり消えてしまったの。そして次の日、急にお腹が痛くなってこのまま私は死んでしまうのかしら。と思ったら坊やが生まれたのよ。」

「えええええええ!!」

僕の方がびっくりした。綾さんがママは不妊手術をしているので、僕はママの子じゃないと言ってから、僕を産んだのは別の猫かもしれないと思っていたからだ。しかしママは不妊の体で聖母マリアのごとく神の啓示とともに受胎し、翌日僕を出産したというわけだ。だから僕には父猫がいないし兄弟もいない。今までのモヤモヤが一瞬で晴れた。

「坊やは赤ちゃんなのにすぐにしゃべれるようになったし、頭は良いし、色々知っていたから。あなたは神様から授かった神の子だと思ってたのよ。」

「そうだったんだ…。」

「ごめんなさい。遮っちゃって。お話しの続きを聞かせて。」

「うん…。」

 

 僕はもう一度深呼吸をして話し始めた。

「僕はね、青山創太っていう人間の高校生だったんだ。」

「あおやまそうた…。」

「ここの、緑雲荘のじいちゃんとばあちゃんの孫なんだよ。」

「孫?」

ママは今度は本当に驚いたようで、その大きな目をより大きく見開いた。

「僕は、ここに人間のときに何度か来たことがあるんだ。ママとはほとんど会わなかったけれど。」

「おじいさん、おばあさんの孫…。」

「そう。男の子だよ。覚えてる?」

ママは目をつむって一生懸命思い出そうとしているようだ。

「親父がね、猫が大嫌いだったから、ママはいつも僕らのことを避けていたように思う。」

「ああ!思い出したわ!怖かったから近づかないようにして、遠くから見ていたわ。あの男の子が坊やなの…。」

「うん…。」

 

 そして僕は普通の男子高校生だったこと、自転車で転んでトラックに轢かれてしまったこと、三途の川に行ったこと、猫神様とのやりとりをママに話した。

「そうだったの…。私はあなたを生む使命、そしてあなたは猫として生きる試練を神様に授かったのね。」

「そうなんだ。」

「でね、大事な話がまだ2つあるんだ。」

「大事な話?」

「そう。大事な話。どうしてもママに話さなくちゃいけないんだ。」

一呼吸置いてからゆっくりと話しはじめた。

「まずひとつ目だけど。…ばあちゃんはもう亡くなっているんだよ。」

「えっ!?」

とママは口を半開きのまま絶句してしまった。

「ばあちゃんはね、去年の夏に運ばれた病院で亡くなったんだ。」

「うそ!だってお葬式だってしてないし!」

ママは少し興奮した感じで言い返してきた。先ほどまでとは打って変わって信じられないという顔をしている。

 

 それもそのはずだ。じいちゃんが亡くなった時は緑雲荘で葬儀をしたし、ママがじいちゃんの亡骸に悲しそうに寄り添っていたのを何度か見ている。しかし、ばあちゃんが亡くなった時、同じく緑雲荘で葬儀をしたのだがママの姿はどこにもなかった。当時はサクラは世話をしてくれる人がいなくなったので、もうどこかに行ってしまったのだろうと話していたのだが、この前綾さんの家にいる時、その理由に気が付いたのだ。

「ママがね、知らない人に何か食べ物をもらって、食中毒になって病院に行って、病院と綾さんのおうちに何日かいたでしょ?多分その時に、ばあちゃんのお葬式をしたんだよ。だからママが帰ってきたときにはもう、ばあちゃんはいなかった。もう、ばあちゃんはいくら待っても帰って来ないんだ。」

「…そうだったのね…。おばあさん…。ごめんなさい。」

ママの目からは涙が溢れてきた。ママはその涙を切るように強く瞼を閉じて、布団に顔を擦りつけるようにしてすすり泣いた。

「ママ…。」

なぐさめるようにママの顔をしばらく舐めていた。

 

 少しするとママは顔を上げた。

「ごめんなさい…。もしかしたら、そうなのかもしれないと思っていたのだけれど、信じたくなかったし、おばあさんを待つことが私の生き甲斐みたいになっていたから。」

「わかるよ…。」

「…いいわ。続きを聞かせて。」

「もう1つね。僕はね、東京までどうしても帰らないといけないんだ。」

「とうきょう?」

「うん。東京。そこに母ちゃんがいるんだよ。」

「人間のお母さんね?」

「そう。人間の。」

「そこは遠いのかしら。」

「うん。めちゃくちゃ遠いよ。」

「会いたいのね、お母さんに。」

「うん。会いたい。会いたいし心配なんだ。それにきっと東京へ行くのが僕の試練なんだと思う。」

「そう…。わかったわ。私が力になるわ。」

そう言うとママは僕を抱きしめた。

「ありがとう。ママ。」

 僕はママに抱きしめられたまま眠りに落ちていった。

 

 目覚めると、二人で交互に僕が人間だった時のことや、じいちゃんばあちゃんのことなどをいっぱい話した。じいちゃんやばあちゃんの話は懐かしくもあり、少し悲しくもあった。僕が全く知らないじいちゃんとばあちゃんのエピソードがいっぱいあったし、二人がママのことをまるで我が子のように愛し、可愛がっていたことが本当によくわかったからだ。

 

 それから、僕らはこれからどうするべきか話し合った。ママはばあちゃんが帰って来ないとわかった今となっては、緑雲荘が名残惜しくはあるけれど、ばあちゃんを待つ必然性が無くなったので、いつ旅立っても良いということだった。

 

しかし課題がいくつか出てきた。

 

 まず第1の課題。それは毎日僕らの面倒を見て倒れてしまった綾さんに負担にならないようにする。ということ。
 第2の課題は、綾さんに心配をかけずにいかにして綾さんのもとから旅立つかということ。きっと綾さんはいきなりいなくなったら心配して僕らを探すに違いない。

 そして最大の課題は、どうやって東京まで行くのか。ということだった。

 

 しかし、一人で思い悩んでいるよりも二人で考える方がやはり良いアイディアというのは出るもんで。二人よればもんじゅの知恵!ん?

 

 こうして僕らはある作戦を思いつき、実行に移すことになる。



次話⇒<第21話


※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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【ライトノベル】吾輩は猫になっちゃった(仮 第18話

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<<第18話>>



僕が見たとてつもないもの。

それは普通ならば見落としてしまいそうな、ちょっとしたものだった。

 

 綾さんのまとめているレポートの内容は現在あの動物病院に入院する猫や犬の診察方法や診断結果、経過をまとめたものだということがなんとなくわかった。

 写真にはあの病院で会話したチョコくんやミーちゃんの写真などもあった。いずれも予後は良好。と書かれていたので一安心したのだが、そこでホッとして視線を落としたその時だ。パソコンの画面の下にあるタスクバー。その右側の時計に何気なく目が行った。

 そこには22:36と表示されていた。

「もう10時半過ぎだよ綾さん…。」

と思ったのも束の間、その下段の日付表示が鮮明に目に飛び込んできたのだ。

2015/3/10。…あぁ。今日はもう310日かぁ。って、ええええええ!!2015年!?」

 僕がヤマジョとカラオケをして、事故を起こし、三途の川に行ったのは忘れもしない、201624日だ。今年のバレンタインは絶対にチョコを貰うんだ。と光一と淳平と色々画策していたことを思い出す。

 日付表示が本当だとすると、僕が以前ママの発言から仮定していた通り、僕は事故から1年前に生まれ変わったことになる。しかも、僕は今日病院で白髪眼鏡先生にだいたい生後67週目と診断された。24日から310日までは34日。5週目いっぱいとなるが、僕が1人でママの母乳を独占して飲みまくって普通の仔猫の平均よりも成長が少し早かったのだとすると、辻褄も合ってくる。

 

 「僕はやっぱり1年前に猫に生まれ変わったんだ…。」

 

 僕に与えられた猶予は1年間と猫神様は言っていたけれど、僕はあの日、24日までに魂を磨けば、もしかしたら元に戻れるのだろうか。今、人間の僕は何をしているのだろうか。淳平や光一とおバカなことをしているんだろうか。そして母ちゃんは1年前と同じように元気にしているのだろうか。色々なことが頭を駆け巡った。

 しかし、何にせよ僕がとにかく魂を磨かない限り、猫神様は上に話を通してくれないということには変わりない。1年間、というかもう残り11か月弱。この姿で魂をどうやって磨けばいいんだろう…。などと考えていたら、鬼のように勉強する綾さんとは対照的にいつものように僕はどっぷりと眠りに落ちて行った。

 

「サクラちゃん、ココアくん。ごはんだよー。」

と綾さんに起こされて目が覚める。

 いつの間にかダンボールベッドの中にいたようだ。僕とママは段ボールから這い出してリビングへと向かう。

テレビの上にある時計は朝の6時を指していた。

「綾さん…。早いよー。」

とつぶやきながら重い瞼をパチパチしながらごはんの前まで歩いていく。

すでにお盆の上に僕らのごはんとお水、こたつの上には綾さんのごはんが並べられていた。

6時と言うことは綾さんはもっと早くから起きて食事の準備をしていたのか…。それとも昨日レポート書いてたし、もしかして寝てないんじゃ…。

 

 そんな心配をしつつ、昨夜と同じように僕らは3人で一緒に食事をした。そして食後、ママとこたつの中で食後のグルーミングをしている時だ。綾さんが食器を片付け終わり、こたつに戻ってきてテレビのスイッチを入れた。そしてニュースの音声が聞こえてきた。

「今日で東日本大震災からちょうど4年になります。」

その音声に反応して、こたつから這い出してテレビを見た。

テレビでは、東日本大震災の当時の模様や、今現在の被災地の様子、復興の状況などが映し出されている。

 あれは2011年の出来事だ。ちょうど4年ということはやはり今日は2015年。そしてあの忌まわしい震災の起こった311日ということになる。

 4年前。僕にとっては5年前だが当時のことはよく覚えている。僕は小学校6年生で、卒業制作のオブジェの仕上げを6年生全員で体育館でしていた時だった。大きな地震があってみんなで校庭に避難し、そして急遽集団下校をした。それからしばらく流通が麻痺したり、魚の仕入れが困難になったり、計画停電があったりで、うちの店はしばらく閉店する羽目になった。

 そしてその年の夏。中学生になった僕は、震災の影響で観光客が減ったのか、「部屋が空いているから遊びにおいで。」と招かれて夏休みに1人で緑雲荘に遊びに来たのだ。そしてそこで出会ったのが綾さんだった。

 

 今ここでこうして綾さんにお世話になっている事にすごい運命的なものを感じた。いや、それとも猫神様がわざとこうなるようにしたのか…。とにかく今日は2015311日。僕の命の猶予は残り330日。ということだけは改めて明確になった。

 しばらくテレビを眺めながら考え事をしていて体が冷えた僕は、こたつの中に戻ると

 

『子猫+食後+あったかい=強力な眠気』

 

という方程式に抗えず、そのまま眠りに落ちてしまう。

 

「サクラちゃん、ココアくん、そろそろ行くわよ。」

という声とともに綾さんにいきなり寝ているところを抱き上げられて、キャリーケースの中にママと一緒に入れられる。

 そして大変残念なお知らせが。綾さんはすでに部屋着のスエットからバッチリ着替えていた。ラストチャンスを逃し、トホホ。とうなだれる僕を知ってか知らぬか、ママが慰めるように舐めてくれた。

 

 アパートを出ると外はやはりめちゃくちゃ寒かった。大塚産業株式会社札幌支店の看板のある通りを抜けて駐車場に着くと、綾さんは助手席側のドアを開けて僕らのキャリーケースを助手席に固定した。そしてドアを閉めると運転席側に回り、ドアを開け、運転席に座ると

「すぐ温かくなるからね!ちょっと我慢してね!」

と言ってエンジンをかけ、エアコンをマックスにした。そしてドアポケットから何やら取り出すと、一旦外に出て車のガラスをそれでガリガリ擦り始めた。フロントガラスに霜が付いているのだ。さすが北海道。3月でも氷点下らしい。寒いわけだ。

 

 綾さんは車のガラスの霜を取り終えると運転席に戻ってきた。

「準備オーケー!それじゃぁ出発進行!」

カーステの再生ボタンをオンにすると、アクセルと同時にいつものように浜省の曲が車の中に流れた。綾さん浜省好きだなぁ。ちょっと古臭いよなぁ。などと思って最初は聞き流していたのだが、ある曲の歌詞が突然心に突き刺さった。その曲は「家路」というバラードだ。歌詞は大人の事情で載せられないので、要約すると「超疲れてても、すんごく孤独でも、めちゃくちゃ離れてても絶対にあの場所へ帰ってみせる。」というもの。

 うん。大人の事情って大変。

 

 そんなわけで浜省の「家路」に心を打たれて、その歌詞の意味や僕のこれからのことをずっと考えていた。そして導き出した答えは

 

「やっぱ、2月4日までにどうにかして家に帰ろう。」

 

だった。綾さんとずっと一緒にいたいけれど、別れるのはさみしいけれど、もし元に戻れなくてこの命が終わってしまうのならば、最期にはどうしても母ちゃんに会いたい。

 それにもし万が一、元に戻れるのならば、あの日をやり直せるかもしれない。そして人間として、青山創太として綾さんに会いに来ればいい。

 しかしこの雪の残る氷点下の北海道をこの小さい体で旅立つというのは自殺行為かもしれない。良く計画を練って準備しよう。そして出発までにできるだけ大きくなろう。

 

以前同じことを考えていたが、改めてそう決心し、僕の目標は明確になったのだが、そんな矢先に事件が起こる。


次話⇒<第19話


※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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