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僕とチョビ、プリンの3匹の子猫探検隊は一旦ホテル多吉を出てから再びホテル多吉を調べるため別の入り口から潜入した。

 

まずは実態把握のための調査だ。

ホテル多吉内が一体どうなっているのか。客室はどれくらいあるのか。従業員は何人いるのか。経営難なのか。でもってなんで閉めなくてはいけないのか?など、色々知りたかった。

 

湿気が多くてムンとしたランドリー室の洗濯カゴに隠れながら僕らは作戦会議を始めた。

んま、とにかく勢いと流れを生み出すのが大事!と僕が切り出す。

 

「プリン隊長!この建物を案内してくれるかな?」

「タイチョウって何?おにいちゃん。」

チョビが聞いてくる。

いきなりその勢いと流れが滞る。

「うーん、隊長ってのは、このチームを指揮するというか命令してチームを引っ張る偉い人かな。。。」

僕がちょっと嫌な予感を感じつつ、そんでもって言い淀みつつ返答すると、やっぱりチョビが応える。

「指揮?えらいの?タイチョウしたいよ僕も!」

「うん。。。だよね。。。じゃあ。気を取り直して。チョビ隊長!案内して!」

と言うと今度はプリンが反論する。

「ダメー!プリンがタイチョウなんだからっ!チョビは黙ってついてきなさい!」

「やだー!僕がタイチョウするんだもん!!」

 

さっそく仲間割れする子猫探検隊。。。

『父さん。登別の春は。。。とても厳しいです。。。』

 

そんなわけで、じゃんけんして隊長を決めよう!とのアイディアも猫だけに無理っぽかった。

みんなパー出しちゃうからね。。。

 

結局、数分間どっちがタイチョウするんだ問題についてあーじゃないこーじゃないとやりとりしたのち、『フロアごとの隊長交代制』という日本政府も仰天な、先鋭的かつ画期的な制度を採り入れた僕たち子猫探検隊は、まずプリンが先頭、チョビは背後の警護にあたるという役割分担でホテル多吉内を探検することになった。

 

ホテル内は天井にあるライトは消灯で22時で消えたらしく、フロアライトしか灯っておらず、結構薄暗かった。

そして障子やところどころに飾られた浮世絵や人形や掛け軸や生け花などが一層怖さというか薄気味悪さを引き立たせている。

こと、僕に至っては子供のころに両親と行った浅草の『花やしき』のお化け屋敷で号泣したことなんかを思い出しながら、サブイボを立てていた。

 

そんななか、僕が花やしきでチビったせいで、母ちゃんが新しいパンツを買って売店横のトイレで泣く泣くパンツを履き替えたことなど全く知りもしないプリンが

「お兄ちゃんあそこだよ!あそこに階段があるんだよ!」

と先頭切って走り出した。

僕の苦ーい思い出などお構いもせず。

そして追い打ちを掛けるかのように「うしろよし!」

とチョビが後方を確認し、階段めがけて僕を追い抜かして走り出した。

そう。猫ってのはそもそも夜行性の動物である。
さらに、幽霊とかお化けとかの文化なんかは、はなから無いので彼らには暗いとか怖いとかそんな感情は微塵もないのだ。
僕は子供のころから怖がりだったのにこの子らはもはや無敵に見えた。
怖いものが無いってある意味すんごい頼もしい。

 

階段はホテルの左右。というか南北の両端にそれぞれあるようなのだが、僕らはランドリー室に近い、南の階段に向かった。

そして身の丈以上もある階段を一段一段登っていった。

子猫にとって人間の作った階段ってのは結構な高さなのだが、登る分には猫的には全く問題はなかった。

 

幸い。フロアーやエレベーターホールや階段にはお客さんの気配は全くなく、僕らは最上階である3階へ、人間に見つかることなく無事たどり着いた。

 

「フー。意外と大変だったねぇ。。。ゼーハーゼーハー。」

生後2か月弱の子猫にとって、階段1段ってのはかなーり高い。

毎段高跳びしてるような感覚なわけであります。

しかーし。
僕ら猫の身体能力ってのは生れて間もなくでも非常に高いもんで。

僕らはピョンピョンとリズミカルに登っていけたのだった。
しかししかーし。
猫ってのは瞬発力はホントにんもうものすんごいんだけど、持久力が全くないんですわ。

そんなわけで2階を過ぎたあたりからはかなりしんどい状況だった。

そうこうして、なんとか3階にたどり着いた僕ら子猫探検隊は制度に基づき隊長を交代した。

 

「じゃあここで隊長交代ね。プリン隊長お疲れ様。この階はチョビが隊長ね。」

「了解しました!」

「はい!じゃぁプリンはうしろを気を付けます!」

「じゃあこの階は何部屋あるのか、各部屋にどれくらいお客さんいるのか調べるよ。向こうの端にある階段まで見つからないように行ってみよう。ゆっくり静かに見つからないようにね!」

「アイアイサー!」
チョビとプリンが右前足と左前足でちぐはぐに敬礼したもんだから、ちょっと笑ってしまう。

子猫超かわいいわぁ。

ってか、なんとか制度なんて作ったけども、結局なんか僕が隊長みたいだな。フハハハハハ。
ま、いっか。

さて、階段の踊り場から廊下の端に出るとそこには直線の、一本の長ーい廊下が目の前に広がっていた。

僕らがいるのはホテルの南側だった。

で、西側は窓にあるんだけれども、窓にはカーテンではなく障子がはめられていて超和風な作りだった。

そんなもんで外の様子は全然見えなかった。


障子のはめられている反対の東側には客室が並んでいた。

僕らのいる南側の階段から北側の階段までは猫目線でもかなり遠く感じる距離だった。

でも、良く見ると各部屋のドアが入り組んだ構造になっているため、万が一人が出てきてもすぐに隠れられそうだ。


「じゃあ行こうか。」

僕が声をかけると、チョビが慎重に歩き出す。

毛足の長い絨毯が敷いてあるので足音はほぼしない。

僕が「あ!」と言うと、チョビもプリンもドアの前にサッと身を隠した。

 

いいぞ子猫探検隊!

 

「いいね、チョビ、プリン。今のは練習だよ。この調子で行こう。繰り返しになるけど部屋の数を数えて。それと耳をすませて中に人間が居そうな部屋がいくつあるか、中に何人いるかも確認してね。音とか声をよーく音を聞いてね。」

「アイアイサー!」

今度は右前足で敬礼がそろった。
ってかこの状況。もはや隊長が誰だかわからない。


結局。このフロアでは人間に見つかることもなく無事に調査を終えた。

客室数は6部屋。お客さんの居るであろう部屋は半分の3部屋。人数は一部屋につき2人。合計6人だった。

やっぱカップルや夫婦で来てるお客さんが多いようだ。

 

そして僕らは下階の2階へ降りることになる。

階段を下りるというのはそりゃあもうかなり怖かった。

登るよりも全然怖い。

「お兄ちゃんついてきて。」

プリンが前足からズンズン、スタスタ降りていく。

それに後方確認役のチョビも我さきにと僕を追い抜いていく。


「待ってよ!」

僕は高くて怖くて階段にしがみつくように後ろ足から一段一段慎重に折りていた。

緑雲荘から進歩してねぇー。

でも、ここで死ぬわけにはいかないからね。安全第一ですわよ。ふははは。。。


しかし、そこで辛辣な。逆パワハラともとれるような言動が発せられる。

「お兄ちゃん。。。遅いよ。。。それにかっこわるい。」


チョビが階段の折り返しになる踊り場で僕を見上げながら見下すようにつぶやいた。

「な、なぬっ!!」

チョビの一言に僕の自尊心が超揺さぶられる。

 

人間だったら何でもない階段が、こんな生命の危機すら感じるアスレチックになるとは思いもしなかった。

 

「チョビくん。お兄ちゃんはね、前足が痛いからゆっくり降りてたんだよ。こんな階段なんでもないんだよ。ホントはね。」

と諭すように見栄を張った手前。僕は彼らも絶句するほどの降り方をせざるを得なくなった。

 

「はーい。みなさーん。人生ってか猫生生きてく上でね。見栄はね。張っちゃだめ!」

これテストに出まーすよー。

 

さて、そんなわけで僕は見栄を見栄でなくすべく2段降り。名付けてスクリュードライバーなる蒲田行進曲のヤス(おやじが好きでよくDVD見てたなぁ)をも凌ぐ、決死の『階段落ち』ならぬ『階段降り』を彼らに披露することになる。

 

「うん。そもそもここから見えないね。2段下。』
猫の視点というのは異常に低い。
言うなれば人間の膝とか脛に目が付いてるような高さだからね。
そういや、こういうアングルどっかで見たなぁ。。。
そうだ!前にスポーツ番組で見たスキージャンプってこういう感じだったわ。
ジャンプと言いつつね、あれ、めちゃくちゃな高さからすんごいスピードで落ちて行ってるんだよね。
てかまさに僕はそのスキージャンプのジャンプ台に立つ気持ちだった。
「ここは俺の人生のラージヒル。沙羅ちゃん見ててね。俺も飛ぶぜ!ここ北海道で!」

などと、くだらないギャグをかましつつ、平静を保とうとする。そしてかっこ悪いお兄ちゃん返上のため僕は決死のジャンプしたのだった。


「んもう、どうにでもなれやぁーーーー!!!」

とジャンプすると、なんと丁度よく階段2段下に着地できた!


「うおぉぉぉーできた!このままもう一回ジャンプだ!とぅ!」


さらに、そして意外にも上手く着地する。

「おっし!いいぞ!でかした俺!いけ!このままもう一回だ!!えーーーーい!!」

 

とさらに踊り場1段手前の2段下にうまく着地した!ものの!!

その勢いが止まらない!全然止まらない!!
「ぬあぁぁぁぁぁ!」

 

そこで僕は何度も見た光景を見ることになる。


「ああ。まただ。スローモーションになってる。。。」

 

僕の視界がスローモーションになってモノクロに天と地を映し出していた。

スローモーション。それは僕が死ぬ間際に見る今世最後の映像なのだ。

僕はその瞬間、死を覚悟し、さらに猫神様との再会をも覚悟していた。。。

 

しかーし!!次の瞬間。なぜかスローモーションが解除され、体がうまく回転して着地がピタッと決まった。

 

『10.0。10.0。10.0。10.0。10.0。10.0。』

内村航平もびっくりの満場一致の満点が出た瞬間だった。

きっとNHKのアナウンサーもここにいたなら

「おにぎりが見せるスクリュードライバーはーっ!・・・栄光への架け橋だー!」と言っていたに違いない。うん。そうだよね。ニャン。


その着地は、かなりアクロバティックだったらしく、チョビとプリンが

「お兄ちゃん。今のどうやったの!?」

と口をあんぐりとしている。

 

猫という動物は本能的に体を足から着地するように捻るようで、それがかなりアクロバティックに決まったようだ。

 

「ふはははは。見たか君たち。お兄ちゃんのスクリュードライバーを。」

 

そんな技の名前初めて言ったが、よくよく考えてみたらそれってカクテルの名前じゃねえかよ。と今更ながら自分ツッコミしてる間もなくチョビが

「スクリュードライバーかっちょいい!」

と賞賛した。

実際自分でもどうなってたのかスロー再生VTRで見てみたかったが、誰も撮ってないわよね。うん。てかニャン。

 

そんなテレビなら高視聴率50パーは稼ぎそうな、youtubeなら100万回再生も夢ではないコンテンツをふいにしながら、僕ら子猫探検隊は隊長交代制により、2階フロアを探検することになる。


今度はプリンが隊長になる番だ。

 

「いくわよ!」

サササササササササササ

 

プリンが体制を低くして一つ目のドアへと走っていく。

それに続く僕とチョビ。

スクリュードライバーに感化されたのかわからないのだが、偵察行動がサマになってきた。

北側の階段の踊り場から見ると、2階は3階とは違ってドアとドアの明らかに間隔が狭いように見えた。

つまりこの階は部屋数が多い。ってことかな。

そんなことを考えつつ、部屋数を数えていく。

 

そして4部屋目まで行ったところだった。

背後で「カチャッ。」というドアが開く音がする。

「隠れて!」

背後の警戒をしていたチョビが言う。
5つ目の部屋のドアの前に僕とチョビが走り込み隠れるが、先を行くプリンは6部屋目のドアが開いていたようで、やむなくドア前を回避し、ジャンプして障子の隙間へ隠れること選択した。

しかし障子の窓は意外にも高く、プリンは上半身は窓枠にしがみついているものの、下半身はバタバタしていた。爪が壁を引っ掻いてカシャカシャ音が鳴る。

「プリン早く隠れて!」と僕が言う。

きっと「ニャニャニャーン!ニャンニャンニャン!」とでも人間には聞こえていたと思う。

ドアを開けて出てきた中年くらいの女性と思われる人間が猫語とプリンがもがく音を聞いて

「え?怖い。何かいる。え?何々!?怖いんだけど!」

と言ってまた部屋へ戻ていった。

そして背後でバタンとドアを閉める音がした。


「ふぁー。やばかったな。見つかるとこだったわ。」


そんな危機を乗り越えつつ僕たち子猫探検隊はその先も人間に見つかることもなく(ある意味見つかってるけど)2階フロアの調査を終えた。


このフロアには12部屋あった。つまり上階とは倍の客室があったのだ。

そして客室にいるのは恐らく5部屋で9名だった。

上階含め、8部屋が埋まっているということになる。6部屋+12部屋で18部屋がホテル多吉の総部屋数ということ。8/18が部屋の稼働率。総客数は15名ってことがわかった。

 

僕らはさらに1階の浴室や喫煙ルームや卓球台やゲームのあるアミューズメント室や自動販売機室やお土産コーナーやフロントを調査した。

 

結果。ホテル多吉はまず、

「普通ーーーの昔ながらの小さな昭和の温泉ホテル。」
ってことがわかった。
さらに満室でないってのは
「繁盛してるわけではないのだろう。」

ってことも子猫であり、人間なら高校生でもある僕にもわかった。

働いてるのは今のところ、秀吉とカツさんの2人のみしか確認できていないが何人くらいいるのだろうか。収支の具合はどんなんだろうか。そんでもってなんで『閉める』のか?

 

そんな疑問は数日後に判明することになる。