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気が付くと霧の中にいた。

四方八方が真っ白な世界。

「え?どこ、ここ。俺何してんの?」

全く思い出せない。

とりあえずGoogle Mapで現在地を調べてみよう。
そう考えた僕は、スマホを取り出そうとお尻のポケットを探るがスマホがない。胸のポケットにもない。どこにもない!

「えー!マジかー!どこで落としたんだろ。やべーな。これじゃ電話もできないじゃん。しかもこの前機種変したばっかなのに、また母ちゃんに怒られるわ。」
ここがどこだかわからないことにはどうにもならない。とにかくこの霧の中からなんとか抜け出さねば。 

仕方なく、何かにぶつからないように両手を前に出して、手探りの状態で歩きはじめると、少しずつ霧が薄れ、ぼんやりと視界が開けてきた。

 

森だ。シーンと静まり返った薄暗い森の中の小道に僕はいた。虫の鳴く音や鳥のさえずりさえも聞こえない。全くの無音と言うのはとても気味が悪かった。早くここから出たい。
小道を早歩きで歩いていくと、その先にはうっすらと光が差しているのが見えた。あの先に何かあるかもしれない。光が差す方へ向かって僕は走りはじめた。だんだんと明るくなってきて、川のせせらぎが聞こえはじめる。そして暗い森をようやく抜けた。

 

すると、そこは一面に花の咲き乱れるお花畑のようなきれいな河原で、その先に幅が20メートルくらいの川が流れていた。
そして対岸には3人の人影が見えた。

あの人たちにここがどこなのか、どうやって帰れば良いのかとりあえず聞いてみよう。

「すいませーん!おーい!」

と手を振りながら走って近づいていくと、だんだんと顔が見えてきて僕は驚いた。

「あれ?じいちゃん、ばあちゃん、それに親父?んなわけないよな。」

そこには死んだじいちゃんとばあちゃんと親父に超そっくりな人たちがいた。
 

「あのー!すいませーん!ここはどこですかー!東京にはどうやって帰ればいいんでしょうかー!」

と僕は大声で尋ねた。 

みんなニコニコしながらこっちにこいと手招きをしている。何やらしゃべっているようだけれど、川の音以外は何も聞こえない。

「すいませーん!聞こえないんですけどー!」
川を渡るにも、僕は全く泳げない。カナヅチっていうやつだ。泳いで行くわけにもいかない。
「どうやってそっちに行けばいいんですかー!」

と尋ねると親父のそっくりさんが何かを言いながら右手の方向を指さしている。指差した先には手漕ぎボートが一艘係留してあった。なるほど、どうやらあれに乗ってこっちへ渡って来いということらしい。

しかし僕は手漕ぎボートにものすごいトラウマがあった。

 

それは忘れもしない小学校1年生の夏休みだった。

家族で富士山の近くのキャンプ場に旅行に行ったとき、湖でボートに乗って魚釣りをしようということになって、僕たちは手漕ぎボートに乗って魚釣りを楽しんでいた。

そしてあるとき僕の竿にとても大きな魚がかかった。

「お父さん、大きいよ!大きいよ!」

引きが強く、竿が持っていかれそうになるし、リールも固くて巻けない。

「おぉ!こりゃデカいぞ創太!今手伝うからな!」

親父が僕の背中にまわり、後ろから僕の両手を包むように竿を支え、一緒にリールを巻いてくれた。

魚影がだんだんと近づいてくる。

「母さん!タモくれ!タモ!」※タモ=魚釣り用の柄の付いた網

「いいか創太、このまま踏ん張ってろ!」

母ちゃんに手渡されたタモを持って、親父がボートから身を乗り出して水面でバシャバシャと抵抗してもがく大物をすくい上げようとしたその時だった。

3人とも魚に注目してボートの片側に寄ってしまったものだから、バランスを崩して僕らは湖に放り出された。

 

全員ボート屋さんから借りた救命胴衣を身に着けていたものの、僕にはそれが大きすぎたからなのか、泳げない僕が慌ててもがいたからなのか、僕は救命胴衣からすり抜けるように湖に沈んでいった。

幸い、子供の頃に「沼津の河童」というあだ名で呼ばれていたらしい、泳ぎが得意な親父がなんとか助け上げてくれたので事なきを得たのだが、あのときの苦しさや大量に飲んだ水の匂いや味、暗い水中から見た湖面のきらめきなどは今でもたまにフラッシュバックすることがある。

それ以降、僕は水が怖くてまったく泳げないし、手漕ぎボートにも乗れないのだ。

 

うーん。マジか…。手漕ぎボートには死んでも乗りたくないな。かと言って見た限り近くに橋はなさそうだし。

どうしよう。とその場に座り込み一旦考えた。

そして解決策を思いついた。「あーそっか。俺バカだなぁ。そもそも、来た方向に戻れば帰れるんじゃね?」と。
あの薄気味悪い森に戻るのは少し気が引けたが、ボートに乗るよりは全然マシだし。

そうと決まれば話は早い。

「あのー、すいませーんでしたー!やっぱ向こう行ってみまーす!ご親切にありがとうございまーす!」

とそっくりさんたちに手を振って会釈をし、別れを告げると、僕は今来た道を引き返すことにした。


そして河原から森に戻ろうとしたとき、森の方から白い猫が一匹現れて、森の入り口を塞ぐようにこちらを見て座った。この猫、どこかで見たような気がするな。と思っているとどこからか穏やかな声が聞こえた。
 

「引き返すことはできない。川を渡りなさい。」


一瞬立ち止まる。今誰かが何か言ったような気がする。しかし見回しても誰もいない。気のせいかな?と思い、森の方へ更に数歩歩くとまた声が聞こえた。


「引き返すことはできない。川を渡りなさい。」


気のせいじゃない。確実に声がした。後ろを振り向くと3人が未だにニコニコしながら手招きしているが、あの人たちの声は全然聞こえなかったし。しかしそれ以外に誰もこの辺にはいないようだが。

「え?誰?何?どこにいるんですか?」

声の主がわからず戸惑っていると

「いいからさー。お前早く渡れよー。川。」

と声がまた聞こえる。少しイライラした口調になっている。

「え?誰?何?どこ?え?え?」

と周りをキョロキョロと見回してもやはり誰もいない。猫はいるが、猫がしゃべるわけないし。

木の陰に誰か隠れてるんだな。と思い、森の中に入ろうとすると、今度はもう若干キレた口調で声が聞こえる。

「だからー!引き返せないからー。早く川渡れって言ってんの!」

「え?こわっ!え?マジ?何?え?」

とパニくっていると

「あー。もう。お前バカだなー。何でわかんないのかねぇ。もう埒が開かないわ。しょうがないなぁ。えい!」

という声がしたと思った瞬間、声の主の対象として完全にスルーしていた白い猫が僕と同じくらいの大きさまで一瞬で巨大化した。

「ええええええええええええ!!」

僕はびっくりして尻餅をついた。この猫がしゃべっていたのか!

「え?何コレ!マジック?え?中に人入ってるの?スゲー!セロよりスゲー!」

と驚嘆していると猫が言った。

「お前ホント馬鹿だから説明しちゃうわもう。私は神だ。」



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※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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