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「行っちゃったね。」
と光一がしみじみ言うと、
「よーし、もろども。反省会じゃぁー!」
と気を取り直すように、織田信長こと淳平が僕らの肩をバン!と叩き、踵を返した。
淳平に従い、本日2度目のマックで反省会をすることになった。
雪はだんだんと強くなっているように感じたが、浮かれた僕らにとって、それはもはやどうでも良くなっていた。
カウンターでそれぞれ飲み物やポテトやナゲットを買って先ほどの2階の席へ。
「さて、これより反省会を行う。」
腕組みした淳平が信長本人を知りもしないのに信長らしいモノマネをしながら言った。
「では、光秀よ。お前の戦果やいかに。」
すると光一はそれに乗っかって、明智光秀らしいモノマネをしながら
「お館様。わたくしの戦果はこちらでございます。」
と言って小さなメモ書きをポケットから取り出し、両手で差し出した。
「おおおおおお!」
思わず淳平も僕も少し興奮して立ち上がり大きな声を出してしまった。
「ば、バカ。お前ら座れよ!」
そのメモ書きには成美ちゃんの電話番号と「LINEしてね」とハートのマークが。
「さすがよのお。光秀。よし勲功を授ける。」
と言って淳平がポテトを一本取り上げ光一の口の前に差し出す。
光一は
「ありがたき幸せ。」
と言ってポテトを咥えた。
「では猿よ。お前の戦果やいかに。」
僕は豊臣秀吉がどういう感じなのかさっぱりわからなかったのだが、猿っぽいイメージに似せようと鼻声の甲高い声に声色を変えて答えた。
「お館様。わ、わたくしめは…」
と言葉を濁し、うつむいて間を取ると、二人は沈黙した。
そこですかさずポケットからメモ書きをサッと取り出した。
「じゃーん!こちらでございます!」
「おおおおおおお!」
やはり二人は立ち上がって大きな声を出す。
「よくやった猿よ。お前にも勲功を授ける。」
と言って僕もポテトを一本授かった。
ポテトを咀嚼し終えると
「して、お館様は。」
と今度は僕が淳平に聞くと、淳平は一旦間を置いてから目を閉じ、静かに言った。
「来月、テーデーエルに行くことが決定した。」
「テーデーエル?」
僕と光一は何のことだか一瞬わからなかったが、すぐに理解した。
「まさか」
「東京ディズニーランド!?」
光一とハモってしまった。
「そうじゃ。テーデーエルじゃ。」
うんうん。と頷く淳平に僕らは
「さすがでございます!お館様!」
「単騎、城を落としに参られるか!」
などと称賛した。
「やったな!」
「最強のトリオだぜ!」
「ありがとう!淳平!お前は神か!」
と3人でハイタッチをした。
「良いか猿よ、光秀よ。鉄は熱いうちに打て。今より矢文を飛ばすのじゃ!」
との淳平の指令で僕たちは早速、それぞれスマホに女の子の連絡先を登録してお礼のLINEを入れようとスマホを取り出した。
そうだ、電源落としてたんだったな…。とスマホの電源を入れると、不在着信の履歴がいっぱい入っていた。
母ちゃんから立て続けに13件も。
「え?」
普段、何か用事があってもそれほど電話をしてくる母ちゃんではないし、いつもなら用件をメールしてくるので、何かあったに違いない。
胸騒ぎがしてとにかくすぐに母ちゃんに電話をしてみたが何度かけてもつながらない。
「どうした創太。」
「電話は早いだろお前!」
と淳平と光一が言うが、ちょっと待ってくれと手で制す。
「ごめん!ちょっと大事な用があるから先帰るわ!明日な!」
と言ってメモ書きをポケットにしまい、僕の慌てぶりにポカンとする二人と飲みかけのコーラを置いたままマックを出た。
外に出たときには雪は大粒のボタン雪になっていた。
植え込みや道路の一部にはすでに雪が積もり始めている。
僕はその中を少し離れた雑居ビルの裏に停めた自転車まで小走りに走った。
自転車のサドルもハンドルも雪が積もり、とても冷たかったが、そんなことを気にしてはいられなかった。
先ほどの浮かれた気分は完全にどこかに行ってしまっていた。
「母ちゃんどうした?電話出ろよ…。」
スマホをすでにかじかんだ親指で操作しながら片手で自転車を漕ぐ。
やはり出ない。
スマホの画面に雪が落ちては水滴となり、画面が歪む。
もう一度かけようと発信ボタンを押すが、画面が濡れてうまく操作できない。ようやく発信ボタンを押し、スマホを耳に当てながら大通りの交差点を渡ろうと前を見たその時だった。
しばらくスマホの画面を見ていたので、信号が赤に変わっていたのに気づくのが遅れていた。
停車していた車が一斉に流れ出す。
危ね!と右手でブレーキを握ると、濡れたマンホールでタイヤがすべり、自転車が傾いていく。僕の視界もスローモーションを見るかのようにだんだんと傾いていき、縦から真横になっていった。
スピードも出ていて雪交じりの路面で転倒した僕は倒れたまま自転車とともに車道へと滑っていく。勢いは止まらない。
ヤバい!と思った瞬間、向こうからものすごいスピードでクラクションを鳴らしながら大型トラックが迫ってくるのが目に入った。
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※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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