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改札口が見えると同時に視界にあの制服が飛び込んできた。柱の近くでこちらを見ているヤマジョ制服に身を包んだ3人組だ。間違いない。

緊張して不自然な作り笑いをしながら改札に近づいていく。

か、かわいい。3人ともめちゃめちゃかわいい!プリクラとはまるで違って実物にはふんわりとしたオーラみたいなものがあった。まわりの景色が霞んで見える。さすがヤマジョだ。


「はじめましてー!」

「はじめましたー!冷やし中華!」

「冬なのに!」

などと3人で打ち合わせた寒いギャグを勢いよくかました後「若干すべっても今日は勢いで押し通すぞ大作戦」を展開することにした僕たちは、苦し紛れに寒いギャグを連発しながらも会話を絶やすことなく、彼女たちとぎこちない距離感を保ったままカラオケ屋までエスコートした。


雨がポツリポツリと少し気になるかならないか程度で降り始めた。

誰も傘を持っていなかったので少し早歩きになったが、僕たちはほとんど濡れることなくすぐにカラオケ屋に到着した。


店内に入ると、茶髪でロン毛のバイトのらしき大学生くらいの男の店員さんが「こいつら合コンかよ。うぜえな。」という顔をしながら面倒臭そうに受付をした。

僕らは2時間のドリンクバー付きのプランを頼んだ。

「それじゃぁ207のお部屋になりますねー。」

とニコリともせずに、マイクと伝票とおしぼりの入った籠を渡され、僕らは207号室へ向かった。


扉を開けると、僕らは一瞬固まった。

せ、せまい!

しかし策士淳平の顔が少しニャっとしたのだけは見逃さなかった。

これは店員の嫌がらせなのかはたまた心遣いなのか。

こうして僕らは部屋がせまかったせいもあって、ギチギチに詰めて座ることになった。


最初は見事に手前男子チーム、奥女子チームに分かれたがこれは想定していた。

はじめの5分くらいはフリードリンクを取りに行ったり、自己紹介をしたりして一切歌わなかったのだが、簡単な自己紹介が終わってからさっそく作戦を展開した。


まずみんなが絶対知っているであろうノリノリの曲を踊りながら3曲ほど歌って盛り上げる。その後はおのおの十八番を歌って女の子にアピールする。そしてその際、歌い終わった人間から三々五々トイレに行くかドリンクの注文を取ってドリンクバーに取りに行き、お目当ての子のとなりに座るように席をシャッフルしていくのだ。
開始から1時間もしないうちに、見事にその作戦は功を奏し、それぞれのお目当ての女の子のとなりに座ることになった。


でも僕と優希ちゃんはお互い緊張してなかなかしゃべれなかった。

しかも詰めて座っているものだからお互いが近すぎて、顔を見るのも恥ずかしいくらいだったし、こちらの鼓動が聞こえてしまうのではないか!と思うくらいに心臓がバクバクしていた。


しかし千載一遇のチャンス。ここは勇気を振り絞ってしゃべらねば。何をしゃべればいいんだ。とうつむいていると、彼女のカバンに白い猫のモコモコしたキーホルダーが付いていることに気が付いた。これだ!

「あー!白い猫のぬいぐるみ!」

と言ったその時、お尻のポケットに入れていたスマホがバイブした。こういうときのバイブはビクッとくる。
もう誰だよ大事なときに。今は人生最大の山場ですよ!

スッとスマホを取り出して、優希ちゃんに見えないように誰からの着信か見る。母ちゃんからだ。電話には出ずに切る。

優希ちゃんはカラオケで聞き取れなかったのか、それとも着信が気になったのか。
「え?何?」
と聞いてくる。 

「白い猫。好きなの?それ。」

カバンのキーホルダーを指差すと、その時またスマホが鳴る。

はぁ。こんな大事なときに。スマホの画面を見ると、やっぱり母ちゃんだ。またスマホを切る。

「誰?もしかして女の子から?」

と優希ちゃんがのぞき込んでくるので

「ううん、違うよ!何でもない。」

と言ってスマホを隠すように今度は電源を落としながらスマホをポケットにしまった。

この年になって母ちゃんから電話なんてかっこ悪すぎる。


気を取り直して先ほどの話題に戻る。

「白い猫ね、俺の今日のラッキーアイテムなんだよ。」

「ウソ!何それ。おかしい。こじつけ?」

と言っていたずらっぽく彼女は笑った。笑顔が可愛くてドキッとした。

「いや、朝の占いでやってたし!」

「うちね、白い猫飼ってるの。キキちゃんって言うの。これね、羊毛フェルトっていうので作ったんだよ。創太君は猫好き?」

「俺んちはね。」

魚屋だから。と言いかけてやめた。恥ずかしくて言えなかった。

ヤマジョの女の子はどこも裕福な家庭で育ってるに違いないし、親も立派な会社役員とかだろうから。

「親父が猫アレルギーだから飼えないの。俺は猫、超好きなのに。」

親父が猫アレルギーというのも自分が猫が超好きというのもウソだった。

親父が昔大事な商品の魚を野良猫に盗まれてからというもの、猫を目の敵のようにしてきたので猫アレルギーというのはあながちウソではないのだけれど、僕はそのおかげで野良猫を見つけたら追い払うようにしつけられてきたので、猫とは全く無縁な家庭環境だったのだ。


しかしその会話が切り口になり、優希ちゃんはスマホに撮りためたキキちゃんの写真や動画をいっぱい見せてくれたりしたし、僕は朝の自損事故の話を、白い猫を救った話に盛ったりして話は大いに盛り上がった。

まさにラッキーアイテムだった。


結局僕ら3人とヤマジョの3人は意気投合し、カラオケは大成功に終わった。

6時半過ぎにカラオケ屋を出たとき、外はもう暗くなり、雨は予報通り雪になっていた。

積もることはなく、雨で濡れた路面に溶けるように雪は消えて行った。

僕らはそんな中、それぞれのカップル同志で歩きながらニコタマの改札へ向かった。


行きにあった距離感は、帰りにはぐっと縮まっていた。

「雪だぁ!」

「雪だねぇ!」

クリスマスとかこういうときに雪というのはなんだか祝福されているような気分になるから不思議だ。夜空のずっと向こうにある月のくすだまから、白い紙吹雪が舞っているかのように思えてくる。


僕らは雪の舞い散る夜空を見上げながら歩いた。
「今日はめっちゃ楽しかったね。」

「うん、優希ちゃんがまさかね、XJAPAN歌うとは思わなかったしwww」

「創太君のAKBも良かったよ!フリ付け完璧だった。」
「そう?」 

「また遊ぼうね、これ私のLINE。登録してね。」

とこっそり彼女が小さい紙に書いたLINEのIDを渡してきた。 

「ありがと。あとでLINEするよ。」


改札まではあっという間だった。もっと駅が遠かったらな。と思わずにはいられなかった。

「気を付けて帰ってね!またね!」

僕たちは帰宅ラッシュでごった返す改札でホームに向かうヤマジョの3人が視界から消えるまで手を振って見送った。
いや、視界から消えてもしばらく手を振り続けていた。 

ついさっきまで隣にあった彼女たちの体温や香りや声や空気。そういった余韻をいつまでも感じていたかったからだ。



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※本作品は小説投稿サイト「小説家になろう」に同時投稿しています。
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